研究課題
炎症が発癌要因の一つであることは、疫学および実験モデルで示されている一方で、炎症と大腸発癌をつなぐ詳細な分子機構にはいまだ不明な点が多い。申請者はこれまでに、正常の腸管上皮細胞の遺伝学的な発癌過程を簡便かつ短期間で再現できる培養モデルを確立した。まず、shRNAの導入による遺伝子発現の変化が環境因子である炎症と協調し、発癌過程を促進するかを調べた。腸管上皮細胞にpLKO.1(ベクター対照)、shp53、shAPCを導入し、活性化炎症細胞(腹腔内浸出細胞)と3時間共培養させた。その後、炎症細胞を取り除き、さらに約2週間培養維持しマウス皮下に移植した。その結果、pLKO.1およびshp53を導入した腸管細胞は炎症の有無に関わらず皮下で増殖しなかった。しかしながら、shAPCを導入した腸管細胞は皮下で増殖し、炎症細胞と共培養したshAPC導入腸管細胞は、炎症の処理をしていない群と比較して腫瘍径の増大が見られた。炎症による発癌過程の促進機構を解析するため、網羅的遺伝子発現解析を行った結果、本来炎症細胞から分泌され、炎症を惹起する作用を持つタンパクであるChitinase-3-like protein 1 (CHI3L1)が、炎症との協調作用によって得られた腫瘍細胞において発現していた。また、同定した遺伝子を標的とした薬剤のスクリーニング系を作製するために、本研究で得られた腫瘍を用いて、スクリーニングに適した培養条件を検討した。その結果、腫瘍細胞は低接着プレートを用いた足場非依存条件下で数週間生き続けることが明らかとなった。以上の結果から、短期間の炎症細胞との共培養はAPCの遺伝子変異と協調的に働き、皮下増殖能を獲得させることが明らかとなった。今後、標的となる遺伝子を決定するとともに、薬剤スクリーニング系を用いて遺伝学的異常と薬剤感受性の関連を調べていく予定である。
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Proteomics
巻: 14 ページ: 1031-1041
doi: 10.1002/pmic.201300414.