研究課題/領域番号 |
24700973
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐々木 宗一郎 金沢大学, がん進展制御研究所, 博士研究員 (50583473)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ケモカイン / 大腸がん / 線維化 |
研究概要 |
AOM+DSS投与による大腸がん発症モデルにおいて、CCL3欠損またはCCR5欠損マウスでの大腸がん発症減弱と、その際の大腸組織内の線維芽細胞の有意な減少を見出した。このモデルでは間歇的な炎症と寛解が発がんにおいて重要とされる。今回用いた遺伝子欠損マウスでは炎症自体が抑制されることも確認しており、それに伴った発がん減弱である可能性が示唆された。しかしさらなる検討の結果、過度な炎症条件下においても同様の減弱効果が得られた上に、線維芽細胞の減少効果はその条件下でも維持されていたことから、この効果は炎症抑制による効果のみならず、別のメカニズムにも依存していることが示唆された。 フローサイトメトリーの解析の結果、欠損マウスでは大腸内への線維芽細胞の集積減少に加え、CD45+Collagen Iで定義したFibrocytesの浸潤抑制も確認された。さらに骨髄キメラマウスを用いた発がんモデルでは、骨髄細胞が欠損マウス由来の場合、発がんの減弱化が見られた。これらの結果は、CCL3/CCR5系を介した大腸内の線維芽細胞の集積機構の存在と、その機構における骨髄由来細胞の重要性を示唆している。これまでに大腸炎に伴う発がんには炎症細胞に注目した研究は広く行われているが、今回の結果はこれに加えて、線維芽細胞の集積による発がん誘導の重要性を示唆している。現在CCR5を阻害することを通して、線維芽細胞ならびにFibrocytesの、発がんまたは腫瘍維持に対する関与をより明確にし、治療応用を視野に入れた検討を進めている。 一方、ウレタン投与による肺がん発症モデルにおける繊維化の関与を検討し、野生型マウスを使用し、ウレタン投与による肺がんの発症に成功した。しかし、このモデルにおける肺腫瘍には有意な線維化の上昇は確認できず、ウレタン誘導モデルにおいては肺の線維化は重要ではないと結論付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸がん発症モデルにおいて野生型マウス、CCL3遺伝子欠損マウスならびにCCR遺伝子5欠損マウスの病理学的検討に用いる予定の組織切片作成用サンプルはすでに回収済みである。また、遺伝子発現パターン検討に用いる予定のサンプルもすでに回収済みであり、必要なcDNA合成もすでに完了している。 AOM+DSS投与後の、Fibrocyteならびに大腸組織内の線維芽細胞の動態も、野生型マウス、CCL3遺伝子欠損マウスならびにCCR5遺伝子欠損マウスですでに解析を行っており、炎症時における大腸組織内での動態の検討も進んでいる。 一方で、CCR5に対する阻害作用を示すtrancatedRANTES投与の検討や、それぞれの遺伝欠損マウスを用いたキメラマウスの作成、それを用いた大腸がんモデルにおける線維芽細胞の動態の検討なども行っており、一定の結果を得ている。 また、他モデルとしてウレタン投与による肺がん発症モデルでは、線維芽細胞の集積と発がんとの関連性についての時間的関係を明確にする結果を得ている。 以上のような点から、本研究は当初に予定していた本年度の計画におおむね沿った進行具合であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究で、AOM+DSS投与による大腸がん発症モデルにおいて、発がんの過程で大腸において線維化が進行することを明らかとした。さらに、線維化がCCL3遺伝子欠損マウスならびにCCR5欠損マウスにおいて有意に抑制されることも明らかとした。 今後は、集積している大腸由来繊維芽細胞をそれぞれのマウスから継時的に採取し、機能解析、遺伝子発現パターン、エピジェネティクな検討を通して、線維芽細胞自体の分子病理学的解析を進め、線維芽細胞集積とがん化との関連性を結び付けるメカニズムの解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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