研究課題
アゾキシメタン(AOM)投与後の硫酸デキストラン(DSS)反復飲用によって生じる大腸がん発症過程において、種々の炎症性細胞の関与が多数報告されている。ケモカインCCL3ならびにCCL3に対するレセプターであるCCR5遺伝子を欠損マウスにおけるAOM+DSSによる大腸がん発症過程を検討し、炎症性細胞浸潤以外に線維芽細胞の集積の関与を示唆する結果を昨年度までに得た。本年度はこの分子機構の詳細な解析を行い、以下の結果を得た。①AOM+DSS処理大腸がん発症モデルで、野生型マウスと比べCCL3欠損またはCCR5欠損マウスにおいて、大腸がん発生数の顕著な減少、大腸内への線維芽細胞の集積減弱、成長因子ヘパリン結合性上皮増殖因子様因子(HB-EGF)の大腸組織での発現減弱がみられた。②大腸がん組織内のI型コラーゲン陽性線維芽細胞がHB-EGFを発現していた。③CCL3は、マウス大腸から分離した線維芽細胞の増殖とHB-EGF発現を誘導した。④AOM+DSS処理後のCCL3欠損マウスに対してHB-EGF遺伝子を過剰発現させたところ、線維芽細胞数の増加を伴わずに、腫瘍形成数が有意に増加した。⑤AOM+DSS処理によって大腸がんが多発している野生型マウスに、CCR5阻害因子であるtRANTES遺伝子発現ベクターを投与すると、線維芽細胞の集積減少・HB-EGFの発現低下とともに、腫瘍形成も減弱した。⑥皮下ならびに盲腸内への大腸がん細胞株接種実験において、野生型マウスに比べてCCR5遺伝子欠損マウスでは腫瘍への線維芽細胞の集積減少と腫瘍形成の減弱がみられた。以上の結果から、がん発症・進展過程に重要な役割を果たしていると近年考えられている腫瘍関連線維芽細胞(CAF)の集積とHB-EGF産生の誘導を通して、CCL3-CCR5系が大腸がん発症過程のみならず進展過程にも関与していると考えられた。さらに、CCL3-CCR5系を介してCAFを調節することが、大腸がんに対する新たな治療戦略となりうる可能性も示唆された。
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