研究課題/領域番号 |
24700974
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 助教 (00447690)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 選択的スプライシング / 細胞周期 / ヌクレオフォスミン |
研究概要 |
NPMは多機能性を有すタンパク質であり、リボソームの生合成、細胞周期制御、中心体複製、ゲノム安定化やアポトーシスなどに関与する。細胞内のNPMは核小体、核質および中心体などに検出される。G1期の中心体に局在するNPMは、中心体複製を抑制的に制御している。細胞周期進行の準備が整うと、CDK2/cyclin Eにより199番目のスレオニン(T199)がリン酸化される。T199リン酸化NPMは中心体から離脱し、中心体複製が開始する。離脱したT199リン酸化NPMは、スプライシングが行われる核スペックルに局在化した。我々はこのリン酸化NPMがin vitroの反応系でスプライシングを抑制的に制御することを報告した。本研究では、リン酸化NPMの新規標的エキソンを同定し、スプライシング制御因子としての役割や、ガン化とスプライシングの関係を明らかにする。 これまでに、T199リン酸化NPMの局在化やスプライシング抑制活性を模倣する活性化型NPM (T199D-NPM)と、これらの活性を示さない不活性型NPM (T199A-NPM)の発現ベクターを調製した。そして、これらの変異型タンパク質をHEK293細胞で過剰発現し、total RNAを回収した。このtotal RNAを用いてエキソンアレイ解析を行った結果、300個程度の標的エキソンの候補を抽出した。この結果を検証するため、RT-PCRによる解析を行っている。また、エキソンアレイ解析から、遺伝子発現の変化を検出しGene ontology解析を行った。その結果、細胞膜に関与する遺伝子群が有意に変化することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度における研究計画では、NPMの過剰発現とtotal RNAの抽出、及びエキソンアレイによる解析を予定した。T199リン酸化NPMの標的エキソンを探索するため、人為的にNPM依存的な選択的スプライシングを細胞内で誘導する必要がある。T199リン酸化NPMの局在化やスプライシング抑制活性を模倣する活性化型NPM (T199D-NPM)と、これらの活性を示さない不活性型NPM (T199A-NPM)の発現ベクターを調製した。これらは、HEK293細胞に導入し、一過的な過剰発現を行った。タンパク質の発現をウェスタンブロット法により検証した後、細胞からtotal RNAを精製した。 エキソンアレイ解析は、活性化型NPMと不活性型NPMを発現させた細胞から精製したtotal RNAを使用して行った。スキャンデータは、独立に2回の実験を行って生物学的デュプリケートを取得した。エキソンの抽出には遺伝子や該当エキソン部分での発現などの抽出条件を適応し、該当エキソンや周辺エキソンのSplicing index (SI値)を調整して約300個程度の標的エキソンを候補として仮に絞りこんだ。抽出したエキソンのNPM依存的なスプライシング変化について、RT-PCR法による検証を行っている。 基本的には、予定した研究計画に従って研究に取組むことができた。ただし、エキソンアレイ解析の結果は、NPM依存的なスプライシングの変化が予想していた程には顕著でないことを示唆した。そのため、より慎重にRT-PCRによる検証を行う必要が生じて、研究計画からの遅れが発生した。
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今後の研究の推進方策 |
NPM依存的なスプライシングの変化は予想より弱いことが、エキソンアレイ解析の結果から示唆された。そのため、RT-PCR法による検証に関して慎重に取組むことが必要となった。平成25年度に、この検証を継続して行い、候補エキソンの中からリン酸化NPMの実際の標的エキソンを同定する。場合によりSI値など閾値のエキソン抽出に関して再調整を行うこととする。これが繰越分の主要な原因となる。 次に、生物情報解析によるアプローチを行う。これまでに、絞り込んだ300個程度の候補エキソンの中から、重要と思われるものを抽出するため、Gene Ontology (GO)解析やパスウェイ解析を行い、「細胞周期制御」、「ガン抑制因子」あるいは「アポトーシス」などに関連する標的エキソンを抽出する。リン酸化NPM依存的に変化し、これらのGO termを持つエキソンについて、細胞周期依存的なスプライシングの変化を検証する。T199リン酸化NPMはG1/S期からS期にかけて検出されるため、標的エキソンもこの時期に制御されると考えられる。ダブルチミジンブロック法により細胞周期をG1/S期に同期させて、標的エキソンの細胞周期特異的なスプライシングをRT-PCRによって検証する。加えて、NPMと標的エキソンの結合解析を行う。標的エキソンがNPMの直接的なターゲットであることを検証する。免疫沈降法により、抗NPM抗体でRNAなどを共沈させ、real-time PCRで共沈した標的エキソンを検出する。これらの解析により、リン酸化NPMとその標的エキソンの関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究計画のうち、エキソンアレイ解析で得られた標的エキソン候補についてのRT-PCR法による検証が完了していない。これはNPM依存的なスプライシングの変化が予想よりも弱く、慎重な検証が必要となったためである。その結果として未使用額が生じた。この標的エキソンのNPM依存的な変化の検証には、多くの分子生物学的あるいは細胞生物学的手法が必要である。そのため、これらの一連の実験を行うために細胞培養用試薬、RNA調製用試薬、cDNA調製試薬、オリゴDNA合成用の費用、PCR関連試薬や電気泳動用試薬などの消耗品に関する費用が必要となる。平成25年度の研究計画に加えて、上記に関する繰越分の費用を計上する。
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