研究課題/領域番号 |
24700974
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 助教 (00447690)
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キーワード | 選択的スプライシング / ヌクレオフォスミン / 細胞周期 |
研究概要 |
NPMは多機能性を有すタンパク質であり、リボソームの生合成、細胞周期制御、中心体複製、ゲノム安定化やアポトーシスなどに関与する。細胞内のNPMは核小体、核質および中心体などに検出される。G1期の中心体に局在するNPMは、中心体複製を抑制的に制御している。細胞周期進行の準備が整うと、CDK2/cyclin Eにより199番目のスレオニン(T199)がリン酸化される。T199リン酸化NPMは中心体から離脱し、中心体複製が開始する。離脱したT199リン酸化NPMは、スプライシングが行われる核スペックルに局在化した。我々はこのリン酸化NPMがin vitroの反応系でスプライシングを抑制的に制御することを報告した。本研究では、リン酸化NPMの新規標的エキソンを同定し、スプライシング制御因子としての役割や、ガン化とスプライシングの関係を明らかにする。 T199リン酸化NPMの局在化やスプライシング抑制活性を模倣する為、活性化型NPM (T199D-NPM)と不活性型NPM (T199A-NPM)を用いて解析を行なった。これらの変異型タンパク質はHEK293細胞に過剰発現されて、total RNAを回収した。これらのサンプルを用いたエキソンアレイ解析により、標的エキソンの候補が得られている。また、細胞膜関連の遺伝子群が、活性化型NPMにより発現誘導される事が示唆されている。これまでに、約30個の選択的スプライシングをRT-PCRにより検証した。その結果、数個の選択的スプライシングで活性化型NPM依存的な変化が見られたが、顕著な変化が観察されたものはさらに少数であった。これらのNPM標的エキソンの制御に関して検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
T199リン酸化NPMの標的エキソンを探索するため、人為的にNPM依存的な選択的スプライシングを細胞内で誘導する必要がある。研究計画では平成24年度までに予定した、T199リン酸化NPMを模倣する活性化型NPM (T199D-NPM)と不活性型NPM (T199A-NPM)の発現ベクターを調製し、NPMの過剰発現とtotal RNAを抽出した。また、この細胞で発生したNPM依存的な選択的スプライシングをエキソンアレイによる解析を完了した。平成25年度の研究計画としては、エキソンアレイ解析の結果得られたNPM依存的な遺伝子群に関する生物情報解析、エキソンアレイ解析で得られたNPM依存的な選択的エキソン群の検証、標的エキソンの細胞周期依存的なスプライシングの変化、NPM と標的エキソンの結合解析を予定した。 生物情報解析では、NPM依存的に遺伝子発現を変化された遺伝子群には、細胞膜関連のものが多く存在する結果が得られた。また、エキソンアレイ解析の結果得られた標的エキソン候補群のRT-PCRによる検証では、約30個の選択的スプライシングを解析し、30%程度のものでNPM依存的な選択的スプライシングが観察された。ただしその変化は極めて微弱のものが多く、顕著な変化はさらに少数のものに限られた。NPMのT199リン酸化は、G1/S期からS期に起こる為、標的エキソンも細胞周期に依存した変化が期待される。細胞周期同調剤を用いて、時期特異的な選択的スプライシング変化の検証を行なっている。また、NPMと標的エキソンの詳細を解析する為、ミニ遺伝子の構築を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
NPM依存的なスプライシングの変化は予想より弱いことが、エキソンアレイ解析及びRT-PCRの検証結果から示された。そのため、平成26年度に予定する研究でも慎重に取組むことが必要となっている。平成26年度、前年度より継続して、標的エキソンの細胞周期依存的なスプライシングの変化の検証を行なう。特に、G1/S期とS期で大きな変化が期待される。また、NPM と標的エキソンの結合解析を行なう。研究を円滑に遂行する事を考慮して、対象とする選択的エキソンに関するミニ遺伝子の構築を行ない、検出の難しさに由来する結合解析の問題解に備える。同時に後述する項目でも、調製したミニ遺伝子を用いる事とし、研究遂行を促進する。これらの前年度より継続して検証を行なう部分が、繰越分の主要な原因である。 次に、NPMのスプライシング制御の分子機構を検証する。前述したミニ遺伝子をレポーター遺伝子として利用し、野生型NPM、活性化型及び不活性化型変異体、あるいはhnRNP H1やRBFox1などのNPMと相互作用する可能性のある因子を細胞に導入する。そして、上記のスプライシング制御因子群による協調的な働きを検証する。加えて、AML等で検出されるNPMc+の過剰発現を行い、標的エキソンのスプライシングの変化をRT-PCRで検証する。この解析は、スプライシング制御因子群の検証と同時に並行して行なう事が可能である。前述の解析と平行して検証する事で、円滑な研究の遂行に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究に関して、NPM依存的なスプライシングの変化が当初の予想よりも顕著なものではないという可能性が、エキソンアレイ解析及びRT-PCRの検証結果から示唆された。全体的に、変化の検出が難しくなっており、より一層に慎重かつ丁寧な実験の遂行が必要となっている。結果として、平成25年度の研究計画に予定していた標的エキソンの細胞周期依存的なスプライシングの変化、及びNPMと標的エキソンの結合解析を開始しているものの、完了には至っていない。これらに相当する部分の為、分子生物学的または細胞生物学的手法に必要な物品費を中心として、次年度使用額が生じることとなった。 平成25年度の研究計画のうち、標的エキソンの細胞周期依存的なスプライシングの変化、及びNPMと標的エキソンの結合解析が完了していない。これはNPM依存的なスプライシングの変化が予想よりも顕著なものではなく、慎重にRT―PCRによる検証が必要となった影響が大きい。それらの結果として未使用額が生じた。これらの解析を含めて平成26年度に予定する研究には、多くの分子生物学的あるいは細胞生物学的手法が必要である。前段で述べた一連の実験を行うために細胞培養用試薬、RNA調製用試薬、cDNA調製試薬、オリゴDNA合成用の費用、PCR関連試薬や電気泳動用試薬などの消耗品に関する費用が必要となる。また、研究の成果を論文として発表する為、英文論文投稿用費用を必要とする。以上、平成26年度の研究計画に加えて、上記に関する繰越分の費用を使用する。
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