研究課題/領域番号 |
24700977
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
赤松 香奈子 京都大学, 薬学研究科(研究院), 研究員 (90553967)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | シグナル伝達 / 癌 / システム創薬 |
研究概要 |
本研究では、単一薬剤では抗腫瘍活性を示さないが二種類の薬剤を複合投与した際に強力な活性を示すキナーゼ阻害剤の混合シナジー効果について、生体内分子ネットワークの変動解析を行うことにより、その抗腫瘍作用メカニズムの解明を目指した。 まずはじめに169種のキナーゼインヒビターを用いたスクリーニングテストにより、単剤では細胞生存率に影響を与えないが2種を複合投与することで劇的に細胞生存率を低下させる薬剤C053とC127を得た。このC053とC127の複合投与による細胞死を詳細に調べるため、Caspase活性、ssDNA量、BrdU取り込みを検討したところ、アポトーシスが誘導され細胞増殖が抑制されていることがわかった。なおC053とC127単剤においても同じように検討したところ、C053では細胞死誘導が全く見られなかったが、C127では弱い細胞増殖抑制がみられた。次にさまざまな細胞株と用いて、C053とC127のコンビネーション投与したところ、すべての細胞株においてコンビネーションにより細胞死が相乗的に増加した。またC053単剤で細胞死を誘導するものはなかったが、CC127は単剤で細胞死が誘導されるものがあった。これらの結果より、C127の弱いキナーゼインヒビター効果をC053が高めている可能性が考えられた。さらにC127が既存の分子標的薬とよく似た構造を有することを発見し、既存の分子標的薬とC053とのコンビネーション実験を行った。その結果ある分子標的薬が053とのコンビネーションにより効果が高まることが分かった。現在はそのシグナル伝達経路についてリン酸化マイクロアレイ法を用いて検討し、ネットワーク解析を行っているところである。 本研究により、多方面からのシグナル経路を解析できるとともに、コンビネーション投与による新規併用療法の提言が期待できるものと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
約2万通りのコンビネーション実験に加え、得られた化合物の類縁体それぞれ20種のコンビネーション実験を遂行できたことは、大きな成果である。コンビネーション投与による細胞死が少なくともアポトーシスを誘導していることから、癌に対する薬剤として多いな期待が持てる。アポトーシスに関しては多くの研究者が日々研究しているが、申請者はこれまでの知識と技術を用いて、細胞死の詳細な検討を初期の段階で完了させた。またC127が既存分子標的薬の構造が類似していることを発見し、既存分子標的薬のシグナル伝達経路を主としたネットワークの予測が可能となった。未知の薬剤C053とC127のコンビネーション投与によるシグナル伝達を解析することは、非常に難解なものであったが、既存分子標的薬をヒントにそのシグナル経路を予測できるようになったことは、大きな発展であった。研究協力者とともに当研究室の研究分野であるシステム創薬という新しい概念を取り入れ、一つの経路にこだわらず、多方面からのシグナル伝達経路の解析を試みることで、多くの分子標的が癌の細胞死にかかわることが確認でき、癌の創薬に対して新しい提言ができるようになるものと考え、研究は順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)コンビネーション薬剤の化学構造とシナジー活性効果の構造活性相関解析を行うために、C053とC127それぞれの類縁化合物を入手し、そのコンビネーションによる細胞生存率のシナジー効果の詳細解析を行う。これまでは細胞内リン酸化シグナルの変化を追うことで、シグナル伝達経路のネットワーク解析を行ってきたが、今後は化合物の構造変化から細胞死シナジー活性との相関について検討を行う。 (2)同定した癌関連分子ネットワークを検証するために、siRNAを用いて癌細胞増殖抑制効果を行う。数種のsiRNAについて同時抑制を試み、シグナルネットワークの変動を解明する。この結果よりシナジー効果に起因する細胞内シグナル伝達経路を高い信頼度で同定できる。 (3)C053とC127コンビネーションについて、マウスを用いた抗腫瘍試験を行う。コンビネーション投与方法については、2薬剤を混合したものを浸透圧ポンプを用いて皮下投与する。C053とC127単剤についてもそれぞれ検討する。コンビネーション投与法については、薬剤動態を考慮しながら検討する。 (4)既存分子標的薬を用いたC053とのコンビネーション投与について、その効果をさらに検証するために、分子標的薬の効果が実証されている細胞株数種を用いて確認する。さらにはその耐性株を入手し、耐性株でも同じような効果が得られるか確認する。耐性株はそのメカニズムが不明な場合が多く、その治療法も確立していない。本実験により耐性株においてもコンビネーション効果が得られた際は、耐性メカニズム解明を行う上でも重要な手がかりになると考えられる。耐性メカニズム解析については、研究協力者の助言に基づき行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|