研究課題/領域番号 |
24700978
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内藤 陽子 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員 (10553026)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ゲフィチニブ / キナーゼ / GAK / 間質性肺炎 |
研究概要 |
本研究は、上皮成長因子受容体(EGFR)に対する分子標的薬ゲフィチニブの間質性肺炎といった副作用が、ゲフィチニブ新規標的候補であるCyclin G-associated kinase(GAK)の阻害により生じる可能性を解明すべく行う。そのために肺機能不全による新生児致死といった興味深い表現型を示すGAKのキナーゼ欠損型ノックアウト(GAK-kd)マウスおよび胎性繊維芽細胞MEFで見られた表現型についてその分子機構の解析を行った。 GAK-kd MEFではEGF刺激時のEGFRの細胞内取り込みが阻害された。そこでGAKがAP-2のリン酸化を介したエンドサイトーシスを制御するかについて、GAKのAP2M1リン酸化部位変異体をGAK-kd MEFに発現させてEGFRの細胞内取り込み異常が回復するか調べたが、顕著な結果は得られなかった。これは、AP2M1がGAK以外にもリン酸化される可能性や、GAKが全く別の機構でEGF-EGFRシグナルを制御することが考えられた。 ゲフィチニブの副作用が少数の患者でのみ見られる原因としてGAK-SNPに着目した。ゲフィチニブ服用者で間質性肺炎を併発して死亡した患者の肺癌組織由来のゲノムDNAを用い、アミノ酸変異を伴う16個のSNPと副作用との連関を調べたが、特徴的なGAK-SNPは見付かっていない。 また、我々はこれまでにGAKのリン酸化標的として脱リン酸化酵素PP2Aの調節サブユニットB'γを同定しそのリン酸化部位を決定した。申請者はこのGAKによるPP2A B'γのリン酸化の意義について解析を行った。細胞免疫染色によりリン酸化B'γは細胞分裂期の中心体やDNA損傷時の核内フォーカスに局在することを見出した。さらに生化学的解析などにより、このリン酸化がPP2Aホロ酵素の親和性の増加や細胞内分布、脱リン酸化活性の促進を制御することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度実施計画の内容を遂行できた。さらに実施内容の一部を、学術誌(査読あり)に発表することができた。以上より、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度申請者は、in vitroキナーゼ活性測定によりゲフィチニブがGAKリン酸化活性を阻害することを明らかにした。今後はさらに、この阻害作用が生体内in vivoでも見られるかどうかについて調べる。これには、GAKの基質であるPP2A B'γ のリン酸化抗体(作成済み)を用いて免疫染色等を行う予定である。 また、ヒト細胞においてもゲフィチニブ処理やGAKノックダウンによって、GAK-kdで見られたようなEGFRの細胞内取り込み等の異常といった表現型が見られるかどうかを調べる。ヒト肺腺癌細胞ではゲフィチニブ処理によってSP-Aの発現量が低下することが知られる。他にもE-cadherin やEGFRリン酸化の発現量や細胞内分布が変化するかどうかについて調べる。 また一方で、癌組織や癌細胞株で過剰発現しているキナーゼは分子標的薬の標的として有用である。別のゲフィチニブ標的であるEGFRについては広く研究が行われており言うまでもないが、GAKについても前立腺癌において過剰発現していることや、細胞増殖を亢進させる転写因子であるアンドロゲン受容体をGAKが活性化することが報告されており、申請者らも、GAKが多くの癌細胞株で正常細胞に比べて顕著に過剰発現していることを見出したことからも、GAK阻害による癌細胞増殖抑制効果についても併せて考えていく必要がある。これらの結果は副作用の無い新型ゲフィチニブの開発に役立つと考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は原則としてすべて消耗品に充てる予定である。
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