研究課題
神経線維腫症1型(NF1)の原因遺伝子産物Neurofibrominの関わる病態発現機構解明を目的として、NF1発現抑制によるNF1病態モデル細胞を構築し、細胞内異常発現変動分子群を融合プロテオミクスにより網羅的に解析した。約3300種の細胞内発現分子内、NF1発現抑制により、PC12内で特異的に発現が変動する112種の蛋白質を確認した。これらには細胞運動および細胞死調節、細胞分化関連因子群に加えて、新規の腫瘍関連ネットワーク分子の上昇、特にmTOR経路調節因子であるTCTP等が含まれており、これらが総合的に細胞分化異常に関連すると考えられた。NF1発現に連動する新規分子TCTPを中心とした分子ネットワークに注目し、その詳細な機能について検証した。その結果、PDGF等の成長因子の刺激は、MAPKやPI3K-AKTシグナルを介して顕著にTCTPの発現を亢進したことを見出した。NF1腫瘍患者組織におけるTCTPの発現は、NF1腫瘍の悪性度に相関し、特に悪性末梢神経鞘腫(MPNST)においては顕著であった。NF1腫瘍細胞の生存能はTCTP過剰発現によって促進し、発現抑制により細胞サイズの縮小をともなう抑制効果をもたらした。さらに、TCTPの発現抑制および過剰発現によって、NF1腫瘍細胞の生存能およびmTOR経路の活性が有意に減少および上昇することを見出した。以上の結果から、融合プロテオミクス法により新規NF1腫瘍関連分子として同定されたTCTPは、NF1腫瘍形成と悪性化に機能的に関わっている可能性から、新規病態マーカーおよび治療標的としての有用性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
各種NF1遺伝子欠損培養細胞を作製して、NF1遺伝子欠損細胞内におけるTCTPの、発現上昇機構および機能の一旦を解明しており、さらにNF1腫瘍におけるTCTPの発現が腫瘍の悪性度と相関して上昇することを免疫組織化学により明らかしてきた。それら研究結果について、国内外の学会で報告しており、現在論文投稿準備中であることから、当初の計画に沿って順調に本研究が順調に進展していると評価できる。
神経線維腫におけるTCTPの機能を詳細に解析し、神経線維腫モデル内のTCTPの機能阻害方法を検証することによって、神経線維腫の発症機序および治療方法のさらなる検討を行う。1. TCTP蛋白質と結合する蛋白質の同定とその細胞内結合活性・相互作用様式を解析する。NF1病態組織・細胞抽出蛋白質からTCTP特異的に結合する蛋白質を抽出し、nanoLC-MS/MSによってこれら分子群を網羅的に単離・同定する。In-silico機能解析やネットワーク解析によって、NF1腫瘍形成に重要な役割をもつと予想される機能分子群を絞り込み、TCTPとの結合様式の生化学的に解析する。各TCTP分子結合蛋白質群の抗体を調製し、種々の培養細胞と抗体を用いて、それぞれの抗結合蛋白質抗体と抗TCTP抗体による両者の免疫沈降法によって結合を検証する。両者のTag-融合蛋白を用いて生化学的に解析し、お互いの結合のカイネティックスを解析することにより細胞内における両者の結合強度、および様々な成長因子や刺激因子を導入したときの細胞内での結合活性の変化を測定する。また、TCTPおよび結合蛋白分子の各種deletion mutantを作成し、結合活性を比較し、各結合蛋白質上の結合部位を決定する。さらに、TCTP蛋白質の翻訳後修飾部位に対する結合活性の変化を測定する。2.NF1モデルマウス腫瘍におけるTCTP機能阻害が細胞増殖などに及ぼす効果を検討する。TCTPおよびTCTPと特異的に結合するNF1病態関連分子群のNF1治療標的として有用性を評価するため、神経線維腫モデルマウスの腫瘍内においてsiRNA/shRNA/RNAi法や低分子化合物などによって分子機能を阻害し、細胞増殖・腫瘍形成能等に及ぼす効果を検討する。これらの結果に基づき、最適なNF1腫瘍治療方法および治療標的分子を検討する。
プロテオミクス解析における質量分析に関する分析用のカラムや試薬、生化学的実験に関する抗体、siRNA/shRNA、哺乳類発現ベクター、その他分析用試薬、動物レベルでの検証実験に関する実験用動物、細胞培養用試薬・血清、プラスチック器具類、研究調査・成果発表旅費、および研究成果論文投稿費に全額使用予定である。
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Molecular & Cellular Proteomics
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10.1074/mcp.M112.024802
PLOS ONE