研究課題/領域番号 |
24700984
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
和田 智 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (80438837)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | がん / マイクロアレイ / 不死化 / TRA2B / 選択的スプライシング |
研究概要 |
難治性固形がんにおける画期的な創薬を目指し、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析によって策定した癌細胞特異的不死化規定因子TRA2Bの機能解析を行った。 まず、新規標的候補としての可能性について検討するため、ノックダウン実験を行ったところ、顕著な増殖抑制効果が得られた。このことから、TRA2Bが新規抗癌標的となりうることが示唆された。また、増殖抑制効果と、TRA2Bのノックダウン効率との間に相関がみられたことから、TRA2Bが癌細胞の生死を規定する重要な因子であると考えられた。 TRA2B と機能的に関連する因子を策定するため、ノックダウン細胞に対し、マイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。その結果、様々な遺伝子に発現変化が認められ、特にスピンドルチェックポイントの機能因子であるMAD2L1の発現低下や癌抑制遺伝子LATS2の発現が亢進していることが明らかとなった。更に、MAD2L1ノックダウン実験によって、TRA2Bの遺伝子発現に変動が見られないことから、TRA2BがMAD2L1発現を制御していることが示唆された。また、ネットワーク解析においても、TRA2Bノックダウンによりさまざまな細胞周期チェックポイントパスウェイが有意に変動していることが示唆された。 TRA2Bはスプライシングファクターとして、様々な遺伝子における選択的スプライシングを制御することが知られている。また、異常なスプライシングバリアントは癌細胞の増殖や細胞周期チェックポイント制御に影響を与えているというこれまでの報告から、癌や細胞増殖、細胞周期の関連因子における、TRA2Bによる選択的スプライシング制御について検討するため、エキソンアレイや高機能シークエンサーによる解析を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はこれまでほとんど知見の無いTRA2Bと癌関連因子との機能的関連性を調べる事を目的としており、マイクロアレイを使った遺伝子発現解析とネットワーク解析によってTRA2Bと関わりのある候補因子について策定する事が出来た。さらに、real-time RT-PCR法とウェスタンブロッティング法によって、MAD2L1やLATS2に関しては、遺伝子レベルだけでなくタンパク質レベルでの発現調節について検証する事が出来た。これらの成果から、本年度までの研究目的をおおむね達成できたと考えられる。一方で、TRA2Bによる遺伝子発現調節の詳細な機構、および、がんと関わりのあるシグナル伝達系のタンパク質のリン酸化状態や活性の調節に関しては次年度以降の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の成果から、計画通りにTRA2Bによってスプライシング制御される遺伝子について、エキソンアレイと高機能シークエンサーを用いて不死化癌細胞特異的なバリアントを策定する。また、策定したバリアントの配列解析やクローニングを行い、癌細胞不死化に関わる機能について検討する。また、前年度に策定したMAD2L1やLATS2などのTRA2Bによって発現制御される遺伝子について、その発現制御機構についても解析を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
高機能な計算機の購入によって、当初導入する予定であったマイクロアレイ解析やネットワーク解析用有償ソフトウェアではなく、フリーソフトウェアでの解析が可能となったため、消耗品費を大幅に削減する事が出来た。当初、企業委託での高機能シークエンサー実験を予定していたが、研究代表者が使用できる施設に高機能シーケンサーが導入された事で、より多くのサンプルを使ってデータを取得する事が可能となった反面、消耗品にかかる費用が増すため、繰り越した助成金は翌年度の助成金とあわせ、主にその購入に充てる予定である。
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