研究課題/領域番号 |
24700988
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
萩倉 一博 日本大学, 医学部, 研究員 (20613269)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 腫瘍学 / 腫瘍生物学 / がん微小環境 |
研究概要 |
本研究の目的の一つである脂肪細胞の脱分化制御機構の解明とガン周囲の微小環境との関連性について、本年度ではin vitroの実験を中心に行った。 まずマウスDFATの作製方法、培養条件などを検討し至適条件を決定した。その後、マウス乳腺上皮細胞であるNMuMG細胞を用いてマウスDFATとの共培養を行ったところ、TGFβで前処理し上皮間葉移行(EMT;Epithelial mesenchymal transition)を起こさせたNMuMG細胞と共培養したマウス脂肪細胞は、正常NMuMG細胞に比べて脱分化が促進するという結果が得られた。この結果より、マウス正常乳腺上皮細胞またはマウス乳ガン細胞がEMTを起こすと、そのEMT細胞から出る何らかの刺激によって周囲の成熟脂肪細胞の脱分化が促進し、これらの細胞がガン微小環境の形成に関与している可能性が示唆された。 また、脱分化脂肪細胞と血管内皮細胞の3次元培養を行ったところ、管腔形成を起こした血管内皮細胞の周囲に裏打ち構造を作るように脱分化脂肪細胞が付着した。この結果から、脂肪細胞は血管内皮細胞からの刺激で脱分化し、血管壁細胞に分化して血管の成熟化に関与している可能性が示唆された。 これまでガン細胞周囲の繊維芽細胞(CAF; Cancer-associated fibroblast)のほとんどはEMTを起こしたガン細胞が起源であると考えられていたが、本研究から脂肪細胞もCAFに分化して腫瘍血管の成熟化に関与している可能性が示唆され、本研究の結果は今後ガン組織の微小環境の形成過程を考える上で重要であり、また今後、ガン組織の微小環境を標的とした治療戦略を構築する上でも非常に意義があったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度の研究実施計画では脂肪細胞の脱分化条件検討において低酸素条件なども入っていたが、当初の予想よりマウス脂肪細胞はヒト、ブタなどその他の哺乳類の脂肪細胞に比べて初代培養が困難であったため、一部実験計画を省略し、マウス肺ガン細胞や乳腺上皮細胞との共培養や、TGF処理後のEMT細胞との共培養における脱分化効率の評価を優先した。また血管内皮細胞との3次元培養では、レトロウイルスで脱分化脂肪細胞を蛍光標識する際、初代培養からの標識細胞の増幅が困難で時間を費やしたため、本年度は共培養時のTimelapseの評価までは実施できなかったが、代わりに共培養2週間後の共焦点顕微鏡による評価をしたところ、脱分化脂肪細胞は血管の管腔形成の成熟化に関与しているという結果を得ることができた。 様々な予想外の困難があり当初の実験計画通りには進行しなかったことは否めないが、本年度の研究目的である、in vitroにおける脂肪細胞の脱分化の制御機構とガン細胞との関連性について、また血管新生の促進、管腔形成の成熟化への関与など、おおむね必要とされる結果は得ることができた。そして本研究の成果は第20回日本血管生物医学会総会で報告することができ、またマウスを用いた予備実験も年度末に開始することができたので、現在までの目的達成度はおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に引き続きin vitroの追加実験を行いつつ、動物実験を中心に進める予定である。既にSCIDマウスにガン細胞と蛍光標識脱分化脂肪細胞の同時移植実験を開始しているので、今後、脱分化脂肪細胞がガン微小環境でどのような役割をしているかを免疫組織染色で確認する予定である。次に蛍光標識脱分化脂肪細胞をガン細胞移植後マウスの尾静脈より投与、またはガン組織に直接投与を行い、標識細胞がガン微小環境に集積するかを確認する予定で、もし標識細胞のガン組織への集積が認められれば、腫瘍増大にどのような影響があるかを評価する。またこれらSCIDマウスを使用した実験と平行して、AP2CreマウスとRosa26-GFPマウスよりAP2Cre-GFPマウスを作製し繁殖を開始する。その後、AP2Cre-GFPマウスの皮下にガン細胞を移植して、周囲の脂肪細胞が脱分化してGFP陽性の繊維芽細胞となってガン微小環境に取り込まれるのを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費は、抗体や試薬の購入を控えていたことと、当初予定していた高額の血管内皮培養培地を使用しなくても3次元培養可能な培養条件を確立することができたため、当初予定していた予算よりも少ない予算で遂行することができた。次年度は本年度の余剰予算も加えて、マウスの購入(トランスジェニックマウスを含む)と染色用抗体を中心に使用する予定である。また研究成果については、本年度に引き続き次年度も血管生物医学会またはその他の学会で報告する予定である。しかし動物実験の進捗状況や追加実験の必要性などによっては、25年度末までに論文投稿まで行えない可能性もあるので、その際にはその分の予算をマウスや試薬などの消耗品費用に使用する予定である。
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