研究課題/領域番号 |
24700993
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山崎 千尋 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60620995)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 免疫学 / Hsp90 / 樹状細胞 / エンドサイトーシス / クロスプレゼンテーション |
研究概要 |
当初, 当研究室で作製された抗Hsp90モノクローナル抗体が樹状細胞様細胞株DC2.4の細胞膜表面を染色することから, 樹状細胞膜表面にはHsp90が存在するとしてその生理的存在意義, またHsp90を含む細胞膜上の複合体の解析を試みてきた. しかしその後の解析により, DC2.4にはFcγRI (CD64) が強発現していることが判明し, 解析に使用してきた抗Hsp90モノクローナル抗体6H8のサブクラスがIgG2aであったため, 6H8はHsp90への結合以外にFcRを介して結合していることが強く示唆された. サブクラスがIgG1である別の抗Hsp90抗体 (5H12) を用いて再度解析を行ったところ, それでもなおDC2.4は染色されたがその蛍光強度は弱く, 膜表面にHsp90は存在するものの微量であることが確認された. また, より生理的条件に近い樹状細胞としてマウス骨髄由来樹状細胞を染色したところ, やはり非常に弱いが細胞膜表面でのHsp90の発現は認められた. 5H12がDC2.4にエンドサイトーシスされるかについて, FACSを用いて解析を行ったところ, コントロール (IgG1) に比べて効率よく細胞内へ取り込まれていることが認められ, 5H12の取込みはHsp90依存的であることが示唆された. 以上より, 本研究の基盤となる樹状細胞膜表面上のHsp90の存在は確認されており, 樹状細胞膜表面にHsp90が存在するメカニズムの解明と樹状細胞の機能に及ぼす影響の検証という本研究課題のコンセプトは継続可能であるが, 実験計画の遂行のためにはより解析に使用しやすい抗体の作製が必要となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
・ Hsp90を含む複合体の全容解明について 本研究の予備的検討の時点で, 樹状細胞膜表面Hsp90複合体の免疫沈降を行う際に6H8抗体とコントロール(IgG2a)を用いており, この際にHsp90/Hop/Hsc70/FcRγ を含む複合体を得ている. しかしながら, 6H8抗体がもつFcRへの結合の影響を極力排除するため, サブクラスがIgG1である5H12抗体を用いて同様の解析を行ったところ, 認識エピトープ部位が6H8抗体と異なるためか, 細胞膜表面のHsp90複合体を効率よく免疫沈降することができず, 正確な解析ができていない. この問題を解決するため, CDRが6H8と同一でサブクラスがIgG1である抗体 (6H8-IgG1) を遺伝子組換えによって作製中である. ・ 膜表面Hsp90が関与するエンドサイトーシスの分子メカニズムの解明について DC2.4細胞膜上のHsp90依存性に5H12抗体がエンドサイトーシスされることが確認された. このメカニズムとして当初予想されたFcRγからのシグナルの関与について, FcRγからのシグナルを伝える分子であるSyk の阻害剤を用いて検証したところ, 5H12抗体のエンドサイトーシスは阻害されなかった. この他Hsp90, Hsp70阻害剤もエンドサイトーシスを阻害しなかった. 現時点でエンドサイトーシスを起こす際に必須の分子は見つかっていないが, 上述のHsp90複合体の解析を進め, 新たな分子が同定されればその分子に焦点を当て解析する. ・ Hsp90ノックアウトマウスを用いた解析について Hsp90βコンディショナルノックアウトマウスの作製にあたり, 組換えES細胞の作製を試みているが, 現在までに約400コロニーを解析して相同組換体が得られていない. ベクターの再構築も含めて対応中である.
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今後の研究の推進方策 |
6H8抗体のサブクラスがIgG2aであることにより, FcRを介した強い結合が無視できず, FACS等の解析には使用できない. また, サブクラスがIgG1である他の抗Hsp90抗体は認識エピトープ部位が6H8抗体と異なるためか, 細胞膜表面のHsp90を効率よく免疫沈降することができていない. これらの問題を解決するため, CDRが6H8と同一でサブクラスがIgG1である抗体 (6H8-IgG1) を遺伝子組換えによって作製中である. 現時点では当該抗体を産生するHEK293細胞株が得られたところまで確認しており, 大量産生を試みている段階である. 6H8-IgG1を用いて, 予備的検討の結果を含め, 当初の実験計画を遂行する. 特に, 本研究の着想の基となったin vivoの実験系(卵白アルブミン(OVA)抗原を結合させたIgG2a-OVAと6H8の同時投与ではIgG2a-OVA単独投与よりも著しくクロスプレゼンテーション効率が高くなる) を6H8-IgG1で再現できるかを早急に確認する.同時に, サブクラスがIgG1である他の抗Hsp90抗体でも効果が認められるかの検証を行う. 並行して, 樹状細胞膜表面Hsp90複合体の免疫沈降, 抗体のエンドサイトーシス解析を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の予定より使用するマウスの数が減ったため, マウスの購入・維持管理費が減少した. 次年度使用額については, 実験計画の修正に伴い抗体精製に費用がかかるため, 平成25年度請求分の研究費と併せて生化学実験購入に充てる予定である.
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