研究課題
加齢に伴う免疫機能の低下により、がんや感染症等による高齢者の死亡率は急激に上昇する。しかし、そのメカニズムは不明である。申請者は、Gr-1+CD11b+であるミエロイド系抑制性細胞(MDSC)が、老齢個体において増加することを見出し、この細胞による免疫抑制効果が、CD4+T細胞の機能低下を引き起こし、がんの発症および進行を促進すると仮説を立て研究を進めてきた。本研究課題では、MDSCがCD4+T 細胞の機能分化を抑制する分子メカニズムについて検討することを目的として、同じくMDSCを誘導する担癌個体を用いて、CD4+T細胞に対する影響を解析した。その結果MDSCは、CD4+T細胞が活性化され、サイトカインであるIFNgを産生するT細胞サブセット、Th1へ分化する過程を抑制することを見出した。さらに、この抑制効果を担う原因物質について検討したところ、MDSCが産生するIL-6がTh1の分化を抑制することがわかった。そして、これらの研究成果を研究論文として発表した。老齢個体ではMDSCの増加とともに、血中のIL-6濃度の上昇が観察される。さらに、担癌個体由来のMDSCによるTh1細胞の分化抑制は、老齢個体におけるCD4+T細胞でも観察され、CD4+T細胞による抗腫瘍効果の減弱と合致する。このことから、老齢個体で観察されるMDSCによるエフェクターCD4+T細胞の分化抑制メカニズムは両者で共通すると予測された。これらの結果をもとに今後、担癌個体、老齢個体におけるCD4+T細胞の機能低下の分子メカニズムをさらに検討する予定である。本研究により得られる結果は、加齢による抗腫瘍免疫の低下を是正するための治療および予防法の開発に資すると期待できる。
2: おおむね順調に進展している
目的とした、MDSCによるCD4+T細胞の分化抑制におけるメカニズムの解析を行い、原因となる因子の同定に成功した。この研究成果は、がんに対する免疫療法の開発の基盤となる情報を提供するとともに、さらなる発展性を示すものであった。そして、この結果を学会において、あるいは論文として発表した。
これまでの解析から、担癌個体において、MDSC由来のIL-6が抗腫瘍効果を有するTh1への機能的分化を阻害し、腫瘍の増大を促進するという仮説を立て、それに基づき研究を進めてきた。老齢固体におけるIL-6の上昇が、CD4+T細胞の機能的分化不全および、それに伴う抗腫瘍効果の減弱の一因であると考えるため、抗IL-6 抗体処理あるいは未処理の老齢マウスにおけるCD4+T細胞のエフェクターTh1細胞への分化能、および抗腫瘍効果を検討する。また、IL-6を欠損する老齢マウスを作製して、同様の検討を行う。さらに、これらの現象の分子メカニズムを解析するん目的で以下の検討を行う。①MDSC存在下、非存在下で分化したエフェクターCD4+T細胞の両者の遺伝子発現の違いをマイクロアレイ解析にて検討する。MDSCにより誘導されるIFNg産生能の低下は、IL-6シグナルの抑制により解除されことが分かったため、マイクロアレイ解析で検出された差異のある遺伝子について、さらにIL-6シグナルの阻害により発現変化する遺伝子を再検討する。これらの解析により、MDSCの感作により影響を受け、かつ、抗腫瘍効果の減弱の原因となる遺伝子の選別を行うことが可能であると考えられる。②発現変化の認められた遺伝子の情報を考察した上で、エフェクターCD4+T細胞による抗腫瘍効果を抑制するIL-6 受容体を介したシグナル伝達経路をタンパク質レベルで解析を行う。③老齢個体由来のMDSC を用いた場合においても、上記①、②と同様の結果が得られることを確認し、エフェクターCD4+T細胞への遺伝子導入あるいはノックダウンの手法を用いて、機能不全の原因遺伝子の発現を人為的に制御して、その細胞の解析を行うことにより、CD4+T細胞機能不全の分子メカニズムの解明を目指す。
研究費の一部は、老齢マウスの維持、IL-6受容体欠損マウスの樹立等に使用する予定である。また、研究の推進計画にも示した通り、IL-6によるTh1細胞の分化抑制の分子メカニズムの検討のためマイクロアレイ解析を計画しており、その費用として使用する。
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