研究課題
本研究は、「IFN-βによる細胞増殖抑制にmiR-431が深く関与する」という我々の以前の報告を基に、脳腫瘍の中でも悪性度が強く治療困難例であり、IFN-β治療が試みられているものの無効症例が多い「膠芽腫」「髄芽腫」についても、その抗腫瘍・細胞増殖抑制作用にmiR-431が関与していることを明らかにする目的で研究を開始した。膠芽腫3種類および髄芽腫2種類の培養細胞株を用いて、細胞増殖抑制を認める最適なIFN-β濃度を検討する為に、培養細胞を様々な濃度のIFN-β添加培養液で48時間培養し、その後にMTS Assayにより細胞増殖抑制を評価した。その結果、今後の検討において、IFN-β濃度は100,000 IU/ml(至適濃度)で行うこととなった。培養細胞は、IFN-βが至適濃度で添加された培養液で48時間培養した後回収され、その後各々RNAを抽出し、miR-431の発現解析をリアルタイムPCR法で検討した。その結果、至適濃度のIFN-βが添加された培養細胞群では、コントロール群(非添加群)と比較し、有意にmiR-431の発現が減少していた。miRNAはそれぞれ多くのターゲット遺伝子を持つが、miR-431も例外ではなく、数百種類のターゲット遺伝子が存在する。その候補を挙げるに当たり、我々がこれまで使用した経験のあるウェブ上のTargetScanを基に検討した。特に細胞増殖系、サイトカインシグナル等に関与する遺伝子に注目したところ、SOCS6(suppressor of cytokine signaling 6)に我々は注目することにし、miR-431による発現解析、機能解析を今後進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究を開始するに当たり、以前の報告例が非常に有意義なデータとしてあったことから、研究目的も明確に掲げることができ、しかもそれを実行する為の研究手技、方法論もある程度確立し得ていたものを利用することができた。そのため、当初の予定通り、おおむね順調に進展しているという評価に至った。
これまでの検討結果を踏まえ、今後はmiR-431およびそのターゲット遺伝子について、膠芽腫、髄芽腫細胞株におけるそれぞれの作用に関して解析を進めていきたいと考えている。特にターゲット遺伝子については、miR-431のターゲット遺伝子として我々が注目しているSOCS6について解析を進めていく。我々の得られた結果では、培養細胞をIFN-βが至適濃度で添加された培養液で48時間培養した後、miR-431の発現を解析したところ、発現抑制を認めたことから、同じ条件におけるSOCS6の発現量をリアルタイムPCR法で確認する。さらに至適濃度のIFN-βと同時にmiR-431 moleculeをトランスフェクションした培養液でも48時間培養し、SOCS6の発現を解析する。これによりmRNAレベルでターゲット遺伝子の発現量を解析できる。次にタンパクレベルにおける発現解析を行う為に、ウエスタンブロッティング法を行う。上記と同条件で培養細胞を培養し、ウエスタンブロッティング用に48時間後細胞を回収する。まずはターゲット遺伝子であるSOCS6の発現を確認する。SOCS遺伝子は、JAK/STAT Signaling Pathwayに関与する遺伝子の1つであり、特にシグナル伝達の抑制系として作用する。膠芽腫、髄芽腫におけるmiR-431およびSOCS6遺伝子のこのシグナル系に及ぼす作用について、JAK/STATシグナル系の下流に属する様々な遺伝子発現も含めて、ウエスタンブロッティング法で発現解析を行う。
今後の研究の推進方策に示した通り、miR-431の機能解析およびターゲット遺伝子の機能解析を行う。その為、mRNAレベルのこれら遺伝子の発現量を検討する上では、リアルタイムPCR関連試薬(SYBER GREEN及びTaqManプローブ等)が必須である。またウエスタンブロッティング法で検討するうえでは、各種抗体の購入は必須である。具体的にはSOCS6、JAK/STAT Signaling pathway関連抗体である。またタンパクの検出機器に対応した検出試薬を購入する必要もある。このように次年度以降の研究費は主にPCR関連試薬、ウエスタンブロット関連抗体および試薬費として使用する予定である。H24年度の研究費について、未使用額が生じた理由について言及すると、比較的高額な研究試料であるリアルタイムPCR関連試薬(タックマンプローブおよびその検出試薬)について、前研究の時に使用していたものの未使用分から使用開始できたため、新規の購入分が申請時の予算に比べ、最終的に少なくて済んだこと。これについては、研究自体がスムーズに進行できたことにも起因する。
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