生体内には核酸やタンパク質のほかに、糖、有機酸、アミノ酸など多くの低分子が数千種存在する。これらの低分子化合物は、細胞の代謝活動によって作り出される代謝物である。現在では、細胞機能を包括的に理解しようとするために、広く使用されているゲノムの網羅的解析(ゲノミクス)やタンパク質の網羅的解析(プロテオミクス)に加えて、代謝物の網羅的解析(メタボロミクス)が強力な分析手法として利用されている。近年、メタボロミクスを末梢血に応用し、疾患を早期発見しようとする試みがなされており、われわれも数多くの研究成果をあげてきており、代謝物の存在パターンを調べることで、疾患を診断することが可能になりつつある。そこで本研究は局所的超高感度代謝物分析システムの開発を行い、組織切片の代謝物の網羅的解析を実施することを目的とした。 本年度の研究では、局所的超高感度代謝物分析システムの開発のために、大腸がんの発症と強く関連が認められるがん抑制遺伝子であるAPC(Adenomatous polyposis coli)に着目して研究を実施した。APC変異株と野生株の大腸がん細胞を用いて、発現量に違いのあるタンパク質を網羅的に調べた。その結果、解糖系に関与している代謝酵素は、APCが変異することで発現量が変化していることが明らかになった。また、APCの変異によって代謝物変動が起こっていることもわかり、APCが代謝を制御している可能性が示唆された。
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