本応募課題は、我々が独自に選び出した26種類のレチノイン酸標的遺伝子について、ヒト肝細胞癌臨床検体における発現解析を行い、肝細胞癌病態との関連や臨床病理学的意義を調べることで、肝細胞癌の発生・進展に関連する遺伝子を同定することを目的としている。 24年度において肝細胞癌切除検体171例の癌部・非癌部における遺伝子発現を解析した結果、生存期間と有意に関連する遺伝子としてOTUD7Bの癌部における発現が見出された。しかしその他の遺伝子については生存期間との有意な関連は見出せなかった。そこで、25年度は26遺伝子の中で肝細胞癌の発生・進展に影響を与える可能性のある遺伝子としてWnt/β-cateninシグナル受容体の一つであるFrrizled 4 (FZD4)に着目し、研究を進めた。FZD4はレチノイン酸処理により肝癌細胞において発現減少が認められた。siRNAによるFZD4発現抑制はWnt/β-cateninシグナルを抑制し、肝癌細胞の生存率減少が認められた。反対にアデノウイルスによるFZD4強制発現はWnt/β-cateninシグナルを促進し、肝癌細胞の生存率を増加が認められた。これらの結果は、レチノイン酸がFZD4を介しWnt/β-cateninシグナルを制御することにより抗腫瘍効果を発揮している可能性を示唆した。本研究成果は平成26年度第50回日本肝臓学会総会において発表予定である。 またさらなるレチノイン酸の抗腫瘍効果の機構解明のため、レチノイン酸応答性miRNAの同定、肝細胞癌悪性化に関わるレチノイン酸シグナル制御因子の解析にも着手した。今後、再発や転移、上皮間葉系移行(EMT)、血管新生などを含めた肝細胞癌の悪性化機構に対するレチノイン酸の効果を多面的に解析していきたいと考えている。
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