研究課題/領域番号 |
24701010
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中山 タラントロバート 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (00365298)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | がん発現解析 |
研究概要 |
中高齢者の四肢・体幹に好発する悪性軟部腫瘍である粘液線維肉腫は、有用なバイオマーカーが存在せず、臨床上、①初期診断の困難さ、および②切除後の高い局所再発率が問題となり、治療に難渋することが多い。本腫瘍の再発・転移・予後に関する臨床病理学的因子について検討した上で、遺伝子発現解析、タンパク発現解析を行い、粘液線維肉腫における診断・予後関連バイオマーカーを同定することが本研究の目的である。本プロジェクトで粘液線維肉腫の病理診断の標準化、至適切除縁の概念を確立が可能となるうえ、新しい治療標的分子の同定やリスクに応じて個別化した治療法の計画などを通して、粘液線維肉腫の治療成績の向上が期待される。 研究計画の柱は大きく4つである。すなわち、①当院における粘液線維肉腫データベースの作成、および臨床病理学的解析、②粘液線維肉腫の他、骨軟部腫瘍臨床検体の収集、③凍結保存した臨床検体を用いた遺伝子・タンパク発現解析、診断・予後関連バイオマーカーの探索・検証、④パラフィン包埋した検体を用いた病理組織学的検討である。本研究の核となるのは、③凍結保存した臨床検体を用いた遺伝子・タンパク発現解析、診断・予後関連バイオマーカーの探索・検証、であるが、解析対象となる検体は不可欠である。当院既存の凍結保存検体に加え、さらなる検体数の増加を期待し、平成24年度の中心課題として①②③を行い、③④を平成25年度の中心課題と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①粘液線維肉腫データベースの作成、および臨床病理学的解析 当院の診療録データベースを用いて、症例選択基準に基づき、粘液線維肉腫の症例リストを作成した。その際、年齢、性別、腫瘍の部位と大きさ、MRI所見、組織学的所見(FNCLCC) gradeおよび組織学的腫瘍進展範囲)、初診時のAmerican Joint Committee on Cancer (AJCC) stage、累積生存期間、無病生存期間、手術における切除縁、化学療法を施行した場合には施行した化学療法の具体的レジメンとその効果、投与コース数、放射線療法を施行した場合には放射線療法の線量とその効果、腫瘍学的転帰について情報を収集した。それらの臨床情報をもとに予後因子についてJMP(ver.9)を用いて統計学的解析を行った。生存期間はKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成、2群間の生存期間の差の検定にはLog rank検定を用いた。また、多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用いて検討を行い、5%以下を統計学的な有意差とした。研究成果に関しては、日本整形外科学会、ヨーロッパ骨軟部腫瘍学会で発表予定である。 ②粘液線維肉腫の他、骨軟部腫瘍臨床検体の収集 元来まれな腫瘍である骨軟部腫瘍の臨床検体は非常に貴重な研究試料である。我々は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認のもと、外科的切除された腫瘍検体の一部を-80℃に凍結保存している。粘液線維肉腫の他、本研究では対照群となりうる他腫瘍の検体も並行して凍結保存している。 さらに今後のin vitroの基礎実験の可能性も考慮し、初代培養、細胞株樹立に向けて、細胞培養を行った。3株の細胞株を樹立し、それらの細胞学的特性を解析し、論文発表をする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、本研究の核となる、③凍結保存した臨床検体を用いた遺伝子・タンパク発現解析、診断・予後関連バイオマーカーの探索・検証、が解析の中心となる。当院にて凍結保存した臨床検体から、RNAlater®を用いてRNAを、高濃度のウレアを含む可溶化液を用いてタンパク質を抽出している。発現解析の対象とする候補遺伝子(産物)に関しては、既存のマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子解析のデータを再解析し、広く候補遺伝子(産物)を抽出する。RNAはRT-PCRを用いて遺伝子発現解析を行い、タンパク質は、蛍光二次元電気泳動法や質量分析、抗体によるウェスタンブロッティング法を用いてタンパク発現解析を行う。発現解析としては、i)組織型の異なる悪性軟部腫瘍組織同士の比較、ii)予後が異なっていた症例の粘液線維肉腫組織同士の比較、iii)画像上、浸潤性性格が異なる粘液線維肉腫同士の比較、などを行う。 粘液線維肉腫は高齢化社会を背景に本腫瘍診断例は増加傾向にあるものの、骨軟部腫瘍は比較的稀な疾患であり、治療専門施設も少ない。我々慶應義塾大学病院整形外科は、国内有数の骨軟部腫瘍専門施設であり、臨床検体を用いた骨軟部腫瘍の基礎研究を通して骨軟部腫瘍の予後改善を図るのは我々の使命である。本研究に必須である臨床検体の凍結保存は、慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認のもと、現在も前向きに進行中であり、引き続き②粘液線維肉腫の他、骨軟部腫瘍臨床検体の収集を並行して行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の如く、研究計画の柱は大きく4つである。(詳細省略)①データベースの作成後の、臨床病理学的な解析に用いる統計解析ソフトや、学会発表、論文化等に経費使用する予定である。また、平成25年度も②手術の際に得られた臨床検体は、一部凍結保存、一部パラフィン包埋切片作製、一部初代培養へ用いる。凍結保存用チューブ、パラフィン包埋(外注)、HE染色(外注)の必要性から1症例につき2000円、年間150例の収集を見込んで、年間30万円を計上する。さらに、初代培養、細胞株樹立を目指した細胞培養や、in vitroの解析の可能性を考慮し、細胞培養試薬として年間30万円を計上した。その他、経費の主体は、遺伝子・タンパク質の発現解析であり、具体的には、RNA・タンパク質抽出用の試薬、Western blotting用の試薬、RT-PCR試薬となる。上述の如く、候補遺伝子(産物)の絞り込みにはWestern blotting、最終的な検証としては④パラフィン切片を用いた免疫染色が非常に重要であり、抗体購入、必要に応じて抗体作製を考慮する。 未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の消耗品購入に充てる予定である。
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