本邦の肝癌による死亡者数はこの25年間で約3倍に増加し,年間約35000人が死亡しており,これは悪性新生物による死亡原因の第3位となっている.早期肝癌の治療には手術,ラジオ波焼灼療法などがあるが,進行肝癌に対する全身化学療法の開発は他の固形癌よりも遅れており,ソラフェニブしか保険適応がなく,ソラフェニブによる全生存期間の中央値も10.7ヶ月と1年未満であるのが現状である.脂肪酸合成酵素は遊離脂肪酸を合成するのに必須の酵素であり,脂肪酸合成酵素が肝細胞癌をはじめとする癌細胞に特異的に発現が増加していることが近年明らかになってきた.また,脂肪酸合成酵素阻害剤により一部の癌細胞がアポトーシスを起こすことも明らかになってきた.本研究では脂肪酸合成酵素阻害剤を用いて肝細胞癌に対する画期的な治療法を確立することを目的とする. 平成24年度は、各種脂肪酸合成酵素阻害剤をヒト肝細胞癌株に添加してその活性を検討した。平成25年度は検討した脂肪酸合成酵素阻害剤の中で最も作用が強力なセルレニンを用いて各種解析を行った。セルレニンのヒト肝癌細胞株に対する作用機序をウェスタンブロットで検討した。また、セルレニンによって脂肪酸合成酵素を阻害して低下する脂肪酸の組成を同定した。セルレニンによって肝細胞癌株中のパルミチン酸濃度が低下することから、パルミチン酸補充を行ったところセルレニンの抗腫瘍効果が減弱した。 またヒト肝癌細胞株の移植実験を継続し、セルレニンの投与によって移植したヒト肝癌の腫瘍体積が縮小する傾向を確認した。
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