研究代表者は進行性大腸癌に対する標準的な併用化学療法(FOLFOX)において5-フルオロウラシルと併用される白金製剤であるオキサリプラチンがdUTPase遺伝子の発現を抑制することで相乗効果を発揮する可能性に着目した。 前年度までにオキサリプラチンが持つdUTPaseの抑制効果がシスプラチンやカルボプラチンなどの他の白金製剤では観察されないことを見いだした。また、種々の大腸癌細胞株を試験した結果、本現象には野生型のp53が必須であることを確認した。 本年度は主にdUTPase抑制の分子機構解明に取り組んだ。等濃度の白金製剤で大腸癌細胞株を処理した場合ではオキサリプラチンが最も効率的なp53の安定化をもたらし、dUTPaseの発現低下との明確な相関が見られた。オキサリプラチン処理によるp53のリン酸化(Ser15)が確認されたが、種々のキナーゼ阻害剤を用いたスクリーニングでは責任キナーゼの同定に至らず、一般的なDNA損傷応答に関わるキナーゼ群のp53安定化への寄与は小さいことが明らかとなった。また、dUTPase遺伝子の転写制御において重要とされているE2F1の量的低下とp53安定化との関連性を見いだした。興味深いことにdUTPaseと同様にSP1とE2F1結合サイトを有するプロモーター構造によって転写が制御されている複数のDNA代謝系酵素の遺伝子発現もオキサリプラチンの作用によって抑制されることを見いだした。これらの研究成果から5-フルオロウラシルをベースとする併用化学療法においてオキサリプラチンが相乗効果を発揮する分子機構の一端が明らかとなった。
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