研究課題/領域番号 |
24701032
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
牛島 弘雅 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (90509043)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | GATA-6 / PKA / JNK / cancer / cAMP / 転写因子 |
研究概要 |
転写因子GATA-6は細胞の分化・増殖に必須の因子であり、正常細胞ではその発現量は一定のレベルで調節されている。一方、消化器系の多くの癌細胞(大腸癌など)でGATA-6が高発現していることが知られているが、その代謝回転機構は未だわかっていない。本研究は、転写因子GATA-6の分解を速やかに誘導するシグナル伝達経路を明らかにし、その分解経路を大腸癌細胞に応用する。その結果から、『癌化学療法における分子標的としてGATA-6分解系はどの程度有効であるか』を解析することを目指している。 本年度は、GATA-6分解に関わる遺伝子のスクリーニングを行い、スクリーニングの結果見出された遺伝子の、大腸癌細胞における機能を解析することを目的に実験を行った。当研究室で作成したGATA-6安定発現細胞を用いて、分解経路に関わるキナーゼを網羅的に探索した結果、4種類のキナーゼがGATA-6の分解に関与していることを新たに見出した(国際学術雑誌に投稿済)。これらキナーゼのうち、JNK(c-jun N-terminal kinase)に着目し、GATA-6分解機構の詳細を検討した。その結果、JNKが活性化されると核外輸送に関与する因子の発現量が増加し、GATA-6も核から細胞質へ輸送されることがわかった。細胞質に輸送されたGATA-6はその後、プロテアソームによって分解されることも分かった。このことから、GATA-6の細胞内局在を変化させることでその活性を調節できる可能性が示唆された。次年度ではこの現象を大腸癌細胞を用いて抗腫瘍活性とともに検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、GATA-6分解に関わる遺伝子のスクリーニングを行い、スクリーニングの結果見出された遺伝子の機能を調べることを当初の目的としていた。このための実験方法として、レトロウイルスを用いたジーントラップ法を予定していた。この方法では遺伝子破壊細胞の作成・選別し、遺伝子破壊部位を解析する(化合物による変異導入法に比べ、破壊した遺伝子の解析が容易であるなどの特徴がある)。実際にこの方法で実験を進めていく予定であったが、ウイルス感染後の細胞を選別していくステップで薬剤による選別(耐性株)がうまくいかないことがわかった(単離できるほどの大きさのコロニーになっても、培養していくうちに増殖が悪くなってしまう)。このため当初の予想以上にコロニー単離の条件検討に時間を要するものと思われた。この点において達成度はやや遅れていると判断した。そこで、ジーントラップ法の条件検討を進めるのと同時に、探索する遺伝子をキナーゼファミリーに絞り込み、スクリーニングする方法を進めることにした。この方法は既存のキナーゼ阻害薬95種類をGATA-6分解解析系に添加して調べる方法で、遺伝子を網羅的に調べるという当初の目的とは異なるが、申請者が日常的に解析している方法であり、複雑な条件検討の必要が無く直ちに実験することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた知見を大腸癌細胞に応用する。同定されたキナーゼの機能がGATA-6分解を促進するか否かをimmuno blotting等で確認する。以下の検討は、主に大腸癌細胞を用いる。(1)shRNAベクターにより同定したキナーゼの発現抑制を行い、cAMP依存的なGATA-6分解が起こらなくなるかどうかを確認する。(2)同定したキナーゼを発現するベクターを作成し、GATA-6分解が促進するかどうかを確認する。(3)A kinase経路との関連性を、種々のキナーゼ阻害薬の影響やリン酸化状態を解析することで調べる。(4)この経路がヒト大腸癌細胞(培養細胞:DLD-1、HCT15、Caco-2などを使用する)で共通性があるのかを検証する。(5)GATA-6がどのような遺伝子発現を制御しているのかをクロマチン免疫沈降法 (ChIP)-on chip法により解析する。GATA-6の分解を促進することで腫瘍形成、及び抗癌剤感受性に与える影響を検証する。 さらに、GATA-6分解を促すキナーゼを安定発現する細胞、及びGATA-6をノックダウンした細胞の増殖や、細胞外マトリクス存在下(三次元培養)における腫瘍形成能(大きさやコロニー数)を調べる。申請者らが見出したGATA分解促進薬 (anisomycin)の効果も併せて検討する。また、抗癌剤を作用させた場合の感受性を、増殖抑制効果や、細胞死(アポトーシス)、腫瘍形成を指標に調べる。細胞増殖はトリパンブルー色素排除法を、アポトーシスはカスパーゼ活性化の検出や、フローサイトメーターを用いてアネキシンVを露出した細胞数を計測することにより解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の使用計画と大きな変更点は無いと考えている。大型の研究機器(遠心分離機、クリーンベンチ・細胞培養用インキュベーター、冷凍庫など)は講座で所有しているものを使用するので購入の必要は無い。申請者の実験では細胞培養消耗品及びイムノブロット関連試薬は実験に欠くことはできない。次年度の研究では、注目しているキナーゼの強制発現、及び発現抑制などの遺伝子操作が必要になる。そのために、プラスミド精製キットや各種制限酵素、遺伝子導入試薬などが必要になる。また、抗腫瘍効果の解析のために各種抗癌剤、フローサイトメトリー関連試薬、細胞生死判定試薬などが新たに必要である。また、研究成果発表及び最新の研究動向の把握・情報収集のために学会旅費を計上している。本研究で得られた成果は国際学術誌への投稿も考えているのでそのための投稿料も計上している。
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