研究概要 |
昨年の研究では骨髄腫患者で血清sphingosine 1-phosphate(S1P)濃度が健常者と比較し有意な増加があることや進行した病状でS1Pが血清で上昇する傾向があることを確認した。骨髄腫の発症、進展にS1Pが関与することが示唆されたため、本年は骨髄腫細胞株(RPMI8226)を用いて、S1Pシグナルに関連する薬剤であるfingolimod(S1P受容体agonist)やS1P合成酵素sphingosine kinase(SK)阻害剤(ABC294640,SKI-I)の骨髄腫細胞に対する抗腫瘍効果を検討した。 RPMI8226にこれらの薬剤を添加し培養した結果、fingolimodでは5μM、ABC294640は25μM、SKI-Iは500nMの濃度以上で骨髄腫細胞の増殖を有意に抑制した。現在プロテオソーム阻害剤(bortezomib,carfilzomib)との併用で更なる抗腫瘍効果が得られるかを検証ししている。 また抗腫瘍効果を現わした機序についても検証した。S1Pの生理活性の一つに血管新生や細胞遊走があることが知られている。一方骨髄腫細胞の増殖や進展にはこれらの機序が重要であることも既知である。そこでこれらの薬剤の細胞遊走の抑制効果を評価するためヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて検討した。その結果、HUVECはS1Pの添加でその遊走が活性化し、またS1P添加後に各薬剤を追加すると活性化した遊走能は抑制された。このことから、S1P合成の抑制に作用するこれらの薬剤の抗腫瘍効果を示す機序として、骨髄腫細胞の遊走を阻止することが一因と考えられた。2年間の研究結果より、今後の骨髄腫治療の新たな治療戦略の中で、新たにS1Pやそれに関連したシグナル伝達などを検討することが重要であると考えられた。
|