本研究では、従来のがん関連事業の経緯も踏まえつつ、既存試料を持続的な研究基盤として利活用するための欧米における法制度の再編・改革について、①北米・欧州圏における関連法規やガイドラインの検討、②運営関係者や有識者からのヒアリングを通して実証的に明らかにし、③各種の倫理問題や運営上の諸問題への対応について日本に示唆するものを得ることを目的とするものであった。主たる手法は、①既存試料の再利用・転用に関する制度的要件の文献研究、および得られた知見について、ヒアリングや現地視察などの観察研究を通して、②制度と実態との関係や格差について、実証的に検討を行うことである。最終的にはこれらの検討結果を踏まえ、諸段階での検討課題をまとめ、また実用を意識して情報発信することであった。研究の過程で主に検討した課題は、1)試料保管の長期化に特有の問題の検討、2)試料を用いる相異なる制度間の関係が不明確な状況の特定と克服、あるいは緩和する策を検討し、3)現在の国内の諸政策において補強・修正すべき点を分析すること、そして本人の同意範囲を越えうる問題の検討であった。折しもこの期間は世界医師会のヘルシンキ宣言の改訂やバイオバンクをめぐる新宣言案の検討、ISOにおけるバイオバンクの規格策定をめぐる議論、国内では研究倫理に関する行政ガイドライン(統合指針、ゲノム指針)の改正など、国内外でがん試料研究にとっても極めて重要な制度改革の議論が行われた時期であった。研究作業と国内外での論点の比較や、更なる検討に関する見識を深める機会に恵まれ、テキスト・教材の作成の他、研究発表を行うことができた。また、蓄積した試料の活用や配分、産学での試料の流通について新たな課題を見出した。がん研究に加え、医学・生物学研究における人試料運営に広く応用可能な論点であり、現在の研究開発に広く貢献できる意義深い検討ができた。
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