海氷が減少する極域での海氷の生成・成長過程における海面温度分布について,任意の気象・海象場を設定できる氷海-波浪水槽を用いた実験を実施し,高解像赤外線サーモグラフィから得られる連続画像データを基に,フラジル・グリースアイスおよびパンケーキアイスの各氷況下における温度分布特性を明らかにする. 最終年度の研究成果として,フラジルアイスは,過冷却状態になると水面だけでなく,水中からも生成されるようになり,単位時間あたり最大約6mmの堆積量となることが明らかになった.さらに,フラジルおよびパンケーキアイスの大きさを支配する要因として,波浪条件が強い影響を及ぼすことがわかった.また,半日程度の時間を費やしたときのパンケーキアイスの大きさは,周期に依らず同様な分布傾向となることを示し,その分布を確率密度関数によって統計的に評価することができるようになった. 研究期間全体を通しての研究成果として,1)短周期の波動場では,フラジルアイスの生成が早く,液相から固相への相転移時に凝固熱として熱を放出させて海面温度の上昇を引き起こし,パンケーキアイス生成過程への遷移を早めることがわかった.2)水温と周期がフラジルアイスの生成・成長を決定付ける主要な因子であることを示唆した.3)パンケーキアイス成長時では,パンケーキ相互の衝突に伴う周縁部のフラジルアイス堆積部分で熱交換が盛んに行われ,その周縁部分の温度が高くなることを明確にした.4)海水面に占めるパンケーキアイスの面積率が40%を越えるようになると,大気からの冷却が氷厚の成長よりも面積および強度の増加に及ぼすようになることを明らかにした.
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