研究課題/領域番号 |
24710002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中山 典子 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (60431772)
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キーワード | 溶存酸素 / 酸素安定同位体比 / 酸素消費プロセス / 懸濁粒子 |
研究概要 |
本研究は、「海水中の懸濁粒子内部で同位体分別が非常に小さい、もしくは分別を伴わない酸素消費プロセスが存在する」という新たな酸素消費プロセスについての仮説を検証するために、本研究では海水中の溶存酸素濃度とその安定同位体比(δ18O)の関係から得られる同位体分別係数と、懸濁粒子の粒子分析から得られる粒子物理化学特性との関係を明らかにすることを目的としている。 本年度は実際の海水試料を用いて培養実験を行い、溶存酸素の酸素消費過程における酸素同位体分別係数を求めることを目的とした。海水試料は、大槌湾湾央にてバケツ採水により表層水を採取した。採水した海水試料は目視で確認できるほど多くの凝集物が存在していた。この海水試料について、1部を実験室に持ち帰り後すぐに溶存酸素の濃度および酸素安定同位体比(δ18O)分析を行い、残りの試料については20℃の培養室にてバイアルローテータを用いて大型の凝集物生成を行い、一定の時間経過後に試料中に残っている溶存酸素の濃度および酸素安定同位体比(δ18O)分析を行った。海水試料(30ml)中の溶存ガスは、Heキャリヤーガスを用いたバブリング法により脱気し、脱気した溶存ガスはコールドトラップ(-180℃)によりH2OおよびCO2を除去した後、Molecular sieves5A+liqN2にて残りのガス(主にN2,O2,Ar)を濃縮トラップして、その後キャピラリーカラム(Molecular sieves5A, 25m)にて分離し、同位体質量分析計(DELTA Plus XP)に導入して、δ18O値を得た。48時間の培養実験後、酸素濃度は322 umol/kg (t = 0)から133 umol/kg (t = 72hr)まで減少し、48時間後の酸素飽和度は、60.3%であった。酸素安定同位体比(δ18O)は、-1.3‰(t = 0)から+12.8‰(t = 72hr)まで増加した。得られた酸素飽和度と酸素安定同位体比(δ18O)の関係から、closedモデルを適用して同位体分別係数を求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度において、当初研究計画にあった実験室実験による大型の懸濁粒子の生成が予定通りに進まなかったが、今年度は生物生産の高い海域における海水を用いることで大型の懸濁粒子生成実験に成功し、大型懸濁粒子を含んだ海水試料を用いた溶存酸素消費過程に伴う酸素同位体比の変化を捉えることができた。しかし本来ターゲットとしている酸素飽和度40%以下のより低酸素濃度下における酸素安定同位体比のデータ取得については、海水試料を低酸素濃度に減少させるための培養実験に時間がかかっており、全体としては当初の研究計画よりもやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、大槌湾表層の生物生産の高い海水を用いて培養実験を行い、より低酸素濃度下(飽和度40%以下)での海水中の溶存酸素の濃度とその安定同位体比の変化を得る。室内実験で得られた海水中の溶存酸素濃度とδ18Oの関係から、閉鎖系モデルを適用して酸素消費プロセスにおける酸素同位体分別係数を求める。粒度測定装置や接眼マイクロメーター顕微鏡を用いて懸濁粒子内部の酸素移動量に直結する粒子径および体積などの物理化学的特性を測定し、これらと海水中溶存酸素の同位体分別係数との関係を明らかにする。年度後半には、得られた成果をまとめ、学会で発表、国際誌等へ投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初研究計画にあった実験室実験による大型の懸濁粒子の生成が予定通りに進まなかったため、溶存酸素の酸素安定同位体比の測定に取りかかることに大幅な遅れが生じた。そのため、酸素安定同位体比の測定に関わる必要経費が予定よりも少ない額となった。 本年度4月現在において分析が順調に進んでおり、標準ガス、キャリヤーガスおよび試薬について、昨年度未使用額を今年度前期の前半で消費するペースで研究が進んでいる。今年度前期の後半で、今年度使用額を使用する。
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