研究課題/領域番号 |
24710012
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
勝山 千恵 中央大学, 理工学部, 助教 (10580061)
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キーワード | 安定同位体トレーサー / アンモニア酸化細菌 / 亜酸化窒素 / 硝化 / 硝化菌脱窒 / 窒素循環 / 温室効果ガス / 国際情報交換(USA、カナダ) |
研究概要 |
アンモニア酸化細菌は温室効果ガスおよびオゾン層破壊ガスである亜酸化窒素(N2O)を生成し、2つの異なる生成経路(アンモニア酸化と硝化菌脱窒)を持つ。しかし、これらを明確に分別して定量できる方法がなく、それぞれの寄与は不明であり、N2O発生を抑制するための操作因子を割り出すことは難しい。本研究では、申請者らが改良したガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)と2種類の安定同位体15N, 18Oを用いて、アンモニア酸化からのN2Oと硝化菌脱窒からのN2Oを精確に分別定量する簡便な新しい方法(二重標識トレーサー法)を確立し、純粋培養アンモニア酸化細菌やモデル実験系(廃水処理系)を用いて2つの経路の寄与を明らかにすることを目的とする。 平成25年度は、用いる純粋培養アンモニア酸化細菌を増やし、N2O生成経路の比較を進めた。当研究室が純粋分離し保持する2菌株(全ゲノム解読済みのNitrosomonas sp. AL212、全ゲノム解読中のNitrosomonas sp. JL21)および標準株N. europaea ATCC 25978を用い、NH4+もしくはNH2OHと15NO2-を組み合わせた好気培養において生成されるN2Oの15N標識率と15N標識位置を求めた。その結果、実験に用いたすべての菌株において、従来から知られるアンモニア酸化および硝化菌脱窒由来のN2Oのみではなく、NH2OHとNO2-から一原子ずつNを使用してN2Oが生成されることが明らかになった。この結果はN2O生成の第3の経路を示唆する。また、N2O生成の検出に加え、同時にアンモニア酸化によって生成されるNO2-の濃度と15N標識率を求め、各経路のN2O生成に対する寄与率およびNO2-生成速度に対するN2O生成速度が種によって異なることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
15N標識トレーサーを用いたN2OのN標識位置の分析技術の確立は、順調に進んでいる。15N標識トレーサーを用いて複数の純粋培養アンモニア酸化細菌のN2O発生特性を比較し、国際学会および国内学会にて発表した。本研究で、第3のN2O生成経路が示唆され、生成経路は当初予想より複雑であることがわかった。そのため、18O標識トレーサーを用いた分析の確立に向けては、これまでに、反応中に水もしくは分子状酸素からO原子が入り込むことを示したが、各N2O生成径路においてどの化合物にどの程度入り込むのかを、より精密に解析することが課題である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、継続して15N, 18O二重標識トレーサー法を開発する。また、本研究において新たなN2O生成経路が示唆されたため、最終検討の段階において、アンモニア酸化細菌の機能遺伝子を欠損させた変異株を用いた検証が新たに必須となった。共同研究先で調製された変異株を用い、N2O生成経路の分別定量を行う。さらに、モデル実験系として複数種のアンモニア酸化細菌が集積された実際の廃水処理系の試料を用い、実際に生成されるN2Oを本研究で確立した方法により解析し、N2O生成への各経路の寄与率を見積もる。
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次年度の研究費の使用計画 |
アンモニア酸化細菌によるN2O生成経路の分別定量は順調に進展しているが、本研究において新たなN2O生成経路が示唆されたため、最終検討の段階において、アンモニア酸化細菌の機能遺伝子を欠損させた変異株を用いた検証が新たに必須となった。この変異株の調製は難しく、カナダの共同研究先において調製、変異確認後、使用する。変異株は平成25年1月末に到着し、その実験の実施と必要な器具および試薬の購入が遅くなったため次年度使用額が発生した。 平成26年度は、入手したアンモニア酸化細菌の変異株を用いたN2O生成経路の分別定量に必要な器具および消耗品(15N,18O標識試薬、培養用試薬、GC/MS消耗品)を購入する。これらの培養維持の難しいアンモニア酸化細菌をより安定的に管理するため、制御装置付き培養器を購入する。この培養器の稼働によって、常に安定した生育状況の菌株を実験に使用することができ、再現性の高い結果が得られることが期待される。旅費として、培養器に関する研究打合せのための交通費や開発した手法を環境試料におけるN2O発生由来の検証へ応用するための調査交通費を含める。成果をまとめ、論文発表するため、英文校閲料や投稿料を使用する。
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