研究実績の概要 |
好気性アンモニア酸化細菌は温室効果ガスおよびオゾン層破壊ガスである亜酸化窒素(N2O)を生成し、2つの異なる生成経路(アンモニア酸化と硝化菌脱窒)を持つ。しかし、これらを明確に分別して定量できる方法がなく、それぞれの寄与は不明であり、N2O発生を抑制するための操作因子を割り出すことは難しい。本研究では、申請者らが改良したガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)と2種類の安定同位体15N, 18Oを用いて、アンモニア酸化からのN2Oと硝化菌脱窒からのN2Oを精確に分別定量する簡便な新しい方法(二重標識トレーサー法)を確立し、純粋培養アンモニア酸化細菌を用いて2つの経路の寄与を明らかにすることを目的とした。 まず、N2Oの発生源特定に必須なN標識位置の分析技術(N2Oのフラグメント解析)を開発した。次に、当研究室が純粋分離し保持する菌株および標準株のNitrosomonas属細菌を用いた15Nトレーサー実験の結果、従来から知られるアンモニア酸化および硝化菌脱窒由来のN2Oのみではなく、NH2OHとNO2-から一原子ずつNを由来とするN2Oが生成されることが明らかになった。この結果はN2O生成の第3の経路を示唆する。18Oを用いた培養実験では、この推定される第3の経路においてO原子が水もしくは分子状酸素からNO2-に入り込むことが示唆された。そのため、生成経路の分別は当初予想より複雑であることがわかった。よって、平成26年度は、全ゲノム解析済みでもっともよく研究されてきたNitrosomonas europaea ATCC 19718株を用い、推定される3つのN2O生成経路の各寄与率をまずは15Nトレーサー実験により試算した。さらに18Oトレーサーを用いて3つのN2O生成経路を精確に分別するためには、第3の経路のメカニズム解明が必須である。そのため、ATCC 19718株の機能遺伝子欠損株を入手し、安定的な培養維持を立ち上げた。
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