研究課題
<具体的内容>本研究は,造礁サンゴ(共生藻を体内にもち,礁を形成するサンゴ)の放出する有機物(サンゴ粘液)が,微生物(主に従属栄養細菌)にどのように利用され,また微生物食物連鎖に与える影響ついて調べたものである.サンゴから採取した粘液を濾過海水(従属栄養細菌のみが含まれる)に添加すると,サンゴ粘液を添加していない濾過海水(コントロール)と比較して,有意に細菌数が増大することが示された.細菌密度の増殖と平行して,サンゴ粘液添加区の溶存態有機物(DOM)量が減少したことから,従属栄養細菌は,サンゴ粘液中のDOMを利用して増殖したことが示された.また,DOMの減少と同じく,粘液中の溶存態無機リン濃度も減少しており,細菌が溶存態無機リンも取り込んで増殖していたことが示された.さらに現場実験の結果より,サンゴの被覆率が増大するほど(すなわちサンゴ粘液の放出量が増大するほど),細菌密度は高くなり,それに応じて細菌捕食者である鞭毛虫の密度が増大すること明らかとなった.したがって,サンゴ粘液の放出により,微生物食物連鎖(DOM→細菌→鞭毛虫)のフローが促進することが示唆された.<意義と重要性>サンゴ礁生態系の高い生物生産に関しては,これまで数多くの研究成果が報告されてきたが,生産された有機物がどのように流通しているかについての研究はこれから始まろうとしている段階である.サンゴ礁は極めて高い生物多様性有する生態系であるが,その高い生物多様性の観点からは生産物の流通過程を明らかにすることは重要な課題である.本研究は,サンゴ礁食物網の主要な出発点の1つであるサンゴ粘液に焦点をあて,微生物による粘液の利用を明らかにし,サンゴ礁生態系におけるサンゴ粘液の解明の一助となった.
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Marine Ecology
巻: (印刷中)
10.1111/maec.12158
10.1111/maec.12062
日本サンゴ礁学会誌
巻: 16 ページ: 印刷中
Marine Ecology Progress Series
巻: 490 ページ: 11-22
10.3354/meps10481
http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/award/2014.html#20140501