研究課題/領域番号 |
24710014
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
柳 由貴子 山口大学, 農学部, 助教 (20412819)
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キーワード | 腐植物質 / ベンゾピレン / 急性毒性 / 緑藻 |
研究概要 |
本研究では,多環式芳香族炭化水素の生物毒性発現に及ぼす土壌有機物の影響を評価することを目的とし,ベンゾ[a]ピレンを対象として土壌有機物の主要成分である腐植酸への収着ならびにその微生物分解産物の生物毒性変化を検討するものである。 平成25年度においては,ベンゾ[a]ピレンの生物に対する急性毒性に及ぼす腐植酸の影響評価として,緑藻Pseudokirchneriella subcapitataの生育阻害を検討した。使用した腐植酸は昨年度に抽出・精製し,ベンゾ[a]ピレンとの収着係数を算出した3種類の土壌腐植酸(褐色森林土,黒ボク土,泥炭土)を用いた。エチレングリコールモノメチルエーテルに溶解したベンゾ[a]ピレン(最終濃度5mg/L)と腐植酸溶液(最終濃度0~1mg/L)を藻類生育用合成培地に添加して一晩振とうさせた。これにP. subcapitataを10000 cells/ mlとなるように接種して96時間振とう培養した。培養終了後,細胞数を計測し,ベンゾ[a]ピレン未添加区に対するベンゾ[a]ピレン添加区の生育阻害率を算出した。その結果,いずれの腐植酸においても腐植酸添加濃度の増大とともにP. subcapitataの生育阻害率は低下する傾向が認められた。これらのことから,ベンゾ[a]ピレンによる藻類に対する急性毒性は既報におけるベンゾ[a]ピレンの生物濃縮と同様に腐植酸の存在下で軽減することが示された。また,ベンゾ[a]ピレンと最も高い収着係数を示す黒ぼく土腐植酸では,1 mg C/Lの添加濃度において90%もの高い生育阻害軽減効果が認められた。従って,腐植酸による生育阻害の軽減には,ベンゾ[a]ピレンと腐植酸の収着が関与していると考えられるが,厳密な収着係数との相関関係は認められなかったことから,腐植酸自身の生育促進効果などの関与も考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年4月に研究代表者が所属機関を異動することとなり,研究新たな研究環境の整備が必要となった。それに伴い予定した実験計画に全体的な遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はベンゾ[a]ピレンー腐植酸収着体の分解産物についても同様にして生物毒性評価を行い,その毒性変化について検討する。また,分解反応中におけるベンゾ[a]ピレンの自然分解や低濃度による毒性の未発現などの問題が生じた場合にはより小スケールで短時間で行える酵素分解を利用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年4月に研究代表者が所属機関を異動することとなり,新たな研究環境の整備が必要となった。それに伴い予定した実験計画に全体的な遅れが生じたため,次年度使用額が発生した。 遅れているベンゾ[a]ピレンー腐植酸分解産物の毒性評価試験の遂行とともに国際学会での成果発表に使用する予定である。
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