研究課題
南極氷床底部の試料年代が72万年以上と非常に古いうえ,アイスコア中には微生物細胞がごく少量のみしか含まれていないため,全ゲノム増幅法による少数細胞からのゲノム解析をおこなうためのプロトコール確立をおこなった.アイスコア中の試料には古代の微生物が低密度で存在しているが,アイスコアの表面には現生のバクテリアや菌類などの,コンタミネーションである微生物が多く付着しているため,それらを排除するための作業をおこなった.アイスコア表面に付着しているコンタミネーション微生物を排除するために,申請者が微生物分析用に作成したアイスコア融解装置を用いて,氷試料内部のみを無菌的に採取した.氷試料の周囲にポジティブコントロールとして人工的に合成したDNAを塗布し,採取の信頼性の確認をおこなった.また,実験室内や作業中からのコンタミネーションには細心の注意を払う必要があるため,コンタミネーションを排除した小数細胞からのDNA抽出や,標的細胞以外のDNAの混入(コンタミネーション)を抑えたゲノム増幅手法の改良をおこなった.また,予めクリーンルームや試薬などから既存微生物の塩基配列を採取し,コンタミネーション配列のデーターベース化を図った.開発した微量細胞からの全ゲノム増幅手法を用いて,南極氷床下の微生物からゲノム増幅産物の取得し,ゲノム産物は新型のハイスループット・DNAシーケンサーによって大量配列を得ることに成功した.
2: おおむね順調に進展している
本研究で取り扱う試料は古代試料であり,実験室内や作業中からのコンタミネーションには細心の注意を払う必要がある.実験の再現性や確実性を検証するために,コンタミネーションを排除した小数細胞からのDNA抽出やゲノム増幅手法の確立や,予めクリーンルームや試薬などのコンタミネーション配列のデーターベース化は非常に重要なプロセスである.また,開発した微量細胞からの全ゲノム増幅手法を用いて,南極氷床下の試料中に含まれる細胞に対して,自動細胞解析分離装置(セルソーター)を用いた細胞分離・ゲノム増幅産物,および氷試料からのメタゲノム配列を得ることができたので,研究の達成度はおおむね順調であると判断する.
南極氷床底部試料(1-2試料)および,南極氷床底部の環境と比較するために,氷床アイスコア(底部試料ではない)に含まれる微生物から,ゲノム増幅,ゲノム・ライブラリーの作成,および新型シークエンサーでの解読をおこなう.ゲノム配列のアセンブル,ゲノム配列とORFの予測,アノテーション等情報解析をおこない,南極氷床下の生態系の推測をおこなう.また,リボソーム遺伝子等の特定の遺伝子を増幅したPCRクローン・ライブラリーの作成・遺伝子配列の解読をおこない,DNAデーターベースと照合させて,微生物種の推定および検出された微生物がどのような環境から検出されたのかの推定をおこなう.作成したコンタミネーション配列のデーターベースと照らし合わせ,氷試料から得られた塩基配列の正確性の確認をおこなう.以上の結果を元に,微生物と環境条件との関係を検討し,氷床内に存在する微生物種の多様性を評価し,南極氷床下の環境の実体を解き明かす.
本年度は,文部科学省科学研究費新学術領域研究「生命科学系3分野支援活動」ゲノム支援に採択され,次世代型DNAシーケンサーによるメタゲノム解読の支援を頂いたため,当初予定していたゲノム解読費用は来年度に繰り越したが,来年度はサンプル数を増やした精度の高い微生物解析をおこなう.アイスコア処理(コアカットとクリーニング,融解,分注),新型シーケンサーでの解読費用,ゲノム増幅試薬,集積流体回路チップ,および分析用各種試薬類などの消耗品などを購入予定である.
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Environmental Microbiology Report
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Applied and Environmental Microbiology
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