研究課題/領域番号 |
24710021
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
永井 信 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 技術研究副主任 (70452167)
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キーワード | 衛星リモートセンシング観測 / 地上検証観測 / 分光植生指数 / 生態変化 / 落葉広葉樹林 / 常緑広葉樹林 / フェノロジー(生物季節)画像 / 分光放射測定 |
研究概要 |
本研究の目的は、衛星観測で得た分光植生指数の変動と広葉樹林の生態変化や機能変化との対応関係をマレーシアの常緑広葉樹林(ランビルヒルズ)と日本の落葉広葉樹林(高山)の地上観測サイトにおいて調査・検証し、その結果得た普遍性・特異性・不確実性をもとに過去10年間に渡る東アジアの広葉樹林の動態を衛星観測で得た分光植生指数データにより高時間・空間分解能で明らかにすることである。本年度は地上観測データ(生物季節画像・分光スペクトル・天空画像・葉の形質情報)を継続的に取得し、その結果得た地上真値情報と衛星観測で得た分光反射スペクトルや分光植生指数・気象値・植生被覆図などとの対応関係を調査・検証した。最後に2003年から2013年の毎日観測された衛星データ(Terra/Aqua MODIS)を解析し、日本とボルネオの広葉樹林の時空間分布の変動とその変動要因を明らかにした。主な結果は以下の4項である。 1. 毎日の生物季節(フェノロジー)画像から抽出した赤・緑・青のデジタル値の季節変化により一斉開花現象に伴う常緑広葉樹林の樹種ごとに異なるフェノロジーを検出可能であること。 2. 落葉のタイミングを普遍的に検出するためには、葉面積と森林上部の色の変化の両方をとらえるNDVIやEVIよりも森林上部の色の変化を主にとらえるGRVIが有用であること。 3. 日本の展葉や落葉のタイミングは気温の変動と強い相関関係がみられ、衛星で毎日観測したGRVIにより緯度や標高の環境勾配に起因した時空間分布の特性を高精度に検出可能であること。 4. 衛星で毎日観測したGRVIによりボルネオの植生の空間分布の年々変動を500m分解能で検出可能であり、その主な変動要因は森林伐採後のオイルパームなどのプランテーション化に由来すること。 以上の結果は国内外の研究集会にて発表され、3本の論文が国際的な学術誌にて出版(印刷中)された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マレーシアの常緑広葉樹林(ランビルヒルズサイト)と日本の落葉広葉樹林(高山サイト)において、自動観測データ(生物季節画像・天空画像・分光放射スペクトル・分光植生指数)を連続的に取得できた。ランビルヒルズサイトでは観測クレーンの不調により葉の形質情報を1回しか取得できなかったが、高山サイトでは葉の形質情報を年間を通して計画通りに取得できた。これまでに取得した長期的かつ詳細な地上観測データと衛星データとの対応関係を調査することにより、広葉樹林生態系の機能と構造に関する衛星観測の不確実性を低減し、広域的な評価を可能とするアルゴリズムを開発できた。既存研究では不明瞭であった分光植生指数による落葉のタイミングの検出基準を明らかにしたこと(Nagai et al. 2014)、生態系機能(光合成)と強い相関関係をもつ着葉期間の空間分布と緯度や標高による環境勾配との対応関係を明らかにしたこと(Nagai et al. in press)、衛星で毎日観測した分光植生指数によりボルネオにおける植生の空間分布の年々変動を検出する新たな手法を開発したこと(Nagai et al. submitted)は特筆される。平成26年に計画する地上と衛星観測データの統合的な解析による東アジアの森林生態系の時空間分布の変動の図化とその変動要因の分析を前倒しで実行できたことは「研究が順調に進展している」と自己評価する根拠である。今後は、環境勾配に起因した東アジアの広葉樹林生態系の機能・構造及びサービスの時空間分布の図化や、リモートセンシング観測を高精度化するさらなる地上真値情報の蓄積とアルゴリズム開発が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
マレーシアの常緑広葉樹林(ランビルヒルズサイト)と日本の落葉広葉樹林(高山サイト)において、以下の(1)毎日の自動観測と(2)人間による定期的な観測を継続的におこない地上真値情報を得る。 (1)森林全体および樹種ごとのフェノロジー(生物季節)画像・天空画像・分光反射スペクトルおよび分光植生指数(NDVI・EVI・GRVI) (2)葉の形質情報(大きさ・枚数・SPADクロロフィル・角度分布)・個葉の分光スペクトル 昨年度に引き続き、両広葉樹林サイトで得た地上真値情報に基づいて、地上と衛星リモートセンシングの統合的な観測による広葉樹林生態系の機能や構造の時空間分布の変動の広域的な評価を可能とする普遍的なアルゴリズムを高精度化する。このとき、毎日の気象変動下における生態変化や機能変化・CO2フラックス観測で得た光合成生産量データとリモートセンシングデータとの対応関係の理解の深度化に力点をおく。 地上真値情報に基づいて、Terra/Aqua MODIS衛星(高頻度低空間分解能)やLandsat衛星(低頻度高空間分解能)で観測した分光反射スペクトルや分光植生指数データを用いて、日本やボルネオを含む東アジア地域の広葉樹林における過去約15年間の生態系の機能や構造の時空間分布の変動とその変動要因(気象要因と人為起源とを区別して)を広域的に明らかにする。以上の結果得た研究成果を国際的な学術誌へ投稿し、国内外の研究集会において発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
マレーシアの常緑広葉樹林(ランビルヒルズサイト)への渡航費に関して、他の研究助成金も使用したため当初の計画よりも少額で済んだため。 マレーシアの常緑広葉樹林(ランビルヒルズサイト)において、観測機器の保守及びデータ回収、森林を構成する代表的な樹種を対象とした葉の形質情報や個葉の分光スペクトル情報を取得するため計4回渡航費を計上する。また、国際的な研究集会において研究成果発表を行うため旅費と参加費を計上する。
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