研究課題/領域番号 |
24710024
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
岩崎 杉紀 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 応用科学群, 講師 (30535274)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 積乱雲 / 成層圏 / 水蒸気 / 対流活動 |
研究概要 |
・A-train衛星の各センサ(ライダ・94GHzレーダ・赤外イメジャ)を用いた同時オーバーシュートの解析を行った。ここで、オーバーシュートとは積乱雲の頂上付近の雲のうち、浮力を失う高度より高く上がった雲のことである。他測器同時観測によるオーバーシュートの時間変化や特徴から、オーバーシュートは下部成層圏に水蒸気を供給しているという結果しか出てこなかった(オーバーシュートは成層圏を乾燥させるという説があるのだが、この説を支持する結果は出てこなかった)。これらの結果をまとめた論文をIwasaki et al. (2012JGR)に掲載した。 ・科研費申請当時は気がつかなかったが、A-trainには赤外イメジャが2台ある(MODISとIIR)。IIRは極めて無名な測器なので、今までほとんど使われていない。しかし、IIRはほぼ視差が無く、MODISは視差が大きい。このためオーバーシュート観測にはMODISよりIIRの方が適していることが分かった。が、IIRは校正がしっかりできていないことも分かった。高度17km付近の雲に関して、2K程度ずれている。2Kは熱帯の背の高い雲を解析するにはかなり大きい。このIIRの校正について述べた論文を現在投稿している。 ・オーバーシュートの観測結果と数値モデルWRFの計算結果との比較は現在進めている。この結果は2013年5月の春の気象学会で初めて発表する。 ・MTSATとA-trainを組み合わせた解析も2013年の2月頃から始めた。今まで統計的にオーバーシュートの時間発展を推測するしかできなかったが、オーバーシュートの時間変化がある程度実際に追えるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・今まで用いていた衛星搭載イメジャのMODISでは、雲の高さが分かる衛星搭載94GHzレーダまたはライダの軌道直下しか視差補正は出来なかった。これはMODISを搭載した衛星Aquaの軌道がレーダやライダを搭載したCloudSatやCALIPSOと赤道直下で200km強西にずれているためである。雲の高さの推定は94GHzレーダとライダでは異なるので、雲の高さの不確定性は視差補正の誤差を生じさせていた。本研究で、今までほぼ無名だった別の赤外イメジャIIRの校正に関する論文を投稿した(査読結果はこれから)。IIRは衛星CALIPSOに搭載されており、CALIPSOとCloudSatはほぼ同軌道であるので視差補正は不要である。これが無事に通れば、IIRで赤外温度が測れるため、オーバーシュート解析はかなりやりやすくなる。これは研究計画にはなかった予想外の良い結果である。 ・数値モデルWRFとオーバーシュート観測の比較、MTSATとA-trainの両方を組み合わせたオーバーシュート解析、どちらも研究計画通りに進められている。前者は2013年春の気象学会で初めて初期結果を発表する。後者は2013年秋の気象学会には間に合うと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
・投稿中の赤外イメジャIIRの校正論文を掲載する。 ・数値モデルWRFの結果を論文に投稿できるレベルまで洗練させる。この研究は、WRFを観測事例と同じ環境場で計算出来るようになっただけの段階である。まだ不自然な対流が起きたりとオーバーシュートを考察するところまでは行っていない。まだWRFを詳しく使いこなしていないため、何が問題になって再現できていないのか、多くの研究者と話し合って解決していきたい。 ・MTSATとA-trainを組み合わせた解析は、客観解析データとラジオゾンデの観測データも用いて解析中である。下部成層圏に達したかなとこ雲は衛星搭載94GHzレーダには感度が足りずに観測されないが衛星搭載ライダでは観測される事例がほとんどである。通常だとライダ単体では解析には不足するのだが、Iwasaki et al. (2012, JGR)を参考にするとかなり良い精度でそのかなとこ雲の氷水量が推定できることが分かった。これらの専門家と意見交換を行いながらまとめる予定である。ただ、今解析しているものはビルマ沖の夜間の事例である。購入したハードディスクに2011年以降のA-trainの観測データをダウンロードした。現在解析しやすい別の事例を探しているところである。METEOSATのSEVIRIが使えるような事例が出てくればMTSATより時間分解能が細かいデータが使えるので解析もしやすいし、昼の事例が見つかれば可視画像の情報も使えるのでさらにやりやすくなる。このように別事例も探している。
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次年度の研究費の使用計画 |
・データ保存用のハードディスクを購入する。これは、手持ちのハードディスクの容量が不足する可能性があるため、RAIDが壊れるかもしれないため、の2つの理由かによる。現に1か月ほど前に私のハードディスクが壊れ大変な思いをしたので、ハードディスクには余裕を持ちたいと思う。 ・赤外イメジャIIRの論文がまとまりつつあること、数値モデルのWRFの結果が出つつあること、順調にすすめばMTSATとA-trainを組み合わせたオーバーシュートの時間変化の研究もまとまること、の理由により、国内・国際学会でこの2または3つの成果を発表するため、旅費を計上する。今のところ国内は気象学会、海外はアメリカ地球物理連合のAGU fall meetingを考えている。 ・アメリカの研究者のグループが米軍の無人偵察機Global Hawkに気象センサを満載して熱帯の積雲活動や成層圏の水蒸気変動の観測研究を行う。Global Hawkは成層圏を飛ぶことが出来る(日本には成層圏を飛べる研究用の飛行機は存在しない)。航続距離も極めて長く、前例のない大規模・最新鋭の機器をそろえた観測であり、かなりのインパクトがあることが予想される。このキャンペーン観測がオーバーシュート研究に大いに役に立つことは間違いない。これに少しでも絡めるような機会がどう作れるが現時点では分からないが、何かしら関われるような接点を作りたい。 ・論文の掲載費。
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