研究課題/領域番号 |
24710030
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
中村 崇 琉球大学, 理学部, 講師 (40404553)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | サンゴ / 代謝測定 / 個体サイズ / 環境ストレス |
研究概要 |
本年度はサンゴ礁域における温度・光を軸とした微環境の調査を開始し、実際のサンゴが生育しうる微環境において、どの程度の温度変動が起きうるのかを場所・深度などの備環境変化ごとに明らかにすることが出来た。また、サンゴ礁生態系で近年注目をされつつある異常低水温状態でのサンゴ・共生藻の代謝異常や白化に至るプロセスを明らかにするための実験を進めた。具体的には、新規導入した蛍光式酸素濃度測定装置を用いた代謝速度測定用チェンバー作成および、Acropora digitifera(コユビミドリイシ)および Ctenactis echinata (クサビライシの一種)をモデルサンゴ種とした室内実験系における固定条件飼育による代謝ベースライン決定、環境ストレス応答実験などを実施した。特にストレス下でのパフォーマンス低下時には、酸素需要・供給のバランスに変化がみられることが予測されていたが、溶存酸素濃度変化を指標としたストレス検知については、集団間での差を生む原因の一つである、サンゴ体サイズに着目したところ、単一ポリプを持つクサビライシの一種でのストレス代謝応答がサイズ依存性を持つ可能性を明らかにする基礎的データを得ることが出来た。 また、一連の実験系により、ストレスによるダメージ評価のため、非破壊または低侵襲での代謝測定が可能な“Fibox-3蛍光式酸素測定装置”による呼吸代謝測定と、“Diving-PAMクロロフィル蛍光測定装置”による光合成活性測定を組み合わせることで、より信頼性が高い結果を得ることが出来ることが示唆された。低温ストレス応答に関しては、実験室内での急性および慢性的なストレス条件下での比較実験が実施できたことで、今後の多種・多地域からの個体を用いた研究の基礎が確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった、サンゴ礁における光・温度環境の変化については、㎞スケールから数十mスケールでのデータが取れており、現実的な環境変化をとらえることが出来たと評価する。さらに、実験系ではそれらのデータを反映した慢性的ストレスや、急性ストレスを再現すべく温度コントロールが可能な実験系を作り上げ、実際に野外から採取したサンゴ2種を中心としたストレス暴露実験系での代謝応答の測定をおこなえる状態が確立した。これまでに行ってきた測定に加え、本研究では非破壊的な測定方法を2つ組み合わせることで、より信頼性の高いデータ取得が可能になったと考えられる。 また、今後の種間比較・個体群間比較を行う上でも重要な「体サイズ依存性」の温度ストレス応答の一端をとらえることができたことは、個体群間での体サイズ分布特性差が、今後の地球環境及び地域環境変動に対しての地域間応答差を生む可能性など、生態学的にも重要な議論の礎になると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に確立した代謝異常の検知手法を用いて、造礁サンゴ複数種を対象として、完全人工環境下での比較実験をおこなう。温度変化速度を変えた海水槽での飼育実験を行い、クロロフィル蛍光法により植物体へのダメージをモニターすると同時に、蛍光式酸素測定装置により宿主動物であるサンゴの代謝異常を同時に測定する。 それぞれの負荷条件下でのダメージ判定は、共生藻の光合成の他に、外部組織の様態、色素量の増減、宿主の呼吸障害を主軸とした様々な観点から評価する。これらをもとに、代謝異常診断のための基礎データを得る。また、急性および慢性的なストレス条件下で、組織の剥離、色素退色などの、視覚的な初期症状および、代謝異常の進行過程についてパターン分けを行い、野外環境でみられるサンゴ斃死状況との比較をおこなう予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は調査のための旅費および実験用の薬品や水槽等の消耗品が主用途となる。
|