研究課題
本年度は、造礁サンゴ複数種を対象とした飼育実験を中心に研究を実施した。昨年度得られた基礎データ/手法を基に、本実験では、高水温ストレス下におけるストレス応答指標として、クロロフィル蛍光法によるサンゴ共生藻類へのダメージモニタリングと同時に、蛍光式酸素測定装置により宿主動物であるサンゴの呼吸量等における代謝異常を同時に測定する実験系を用いた。対象サンゴ種としては特に、個体としてポリプ体サイズを大きくしながら成長するタイプのクサビライシ科サンゴの一種トゲクサビライシ(Ctenactis echinata)に着目し、異なる体サイズを持つ個体についてサイズ群間での比較を実施した。具体的には、負荷条件下のダメージ等を共生藻の光合成能低下に加え、外部組織の様態変化、色素量の増減、宿主の呼吸障害を主軸としたパラメータによって評価した。実験により水温上昇に伴なう代謝異常の基礎データが得られ、ストレス条件下では、性転換・性成熟を行うとされる体サイズの個体群において、光合成活性の低下、共生藻密度の減少を伴う色素退色などの初期症状および、白化が顕著に観察されたことから、代謝維持管理と性成熟/転換にかけるエネルギー分配のバランスによっては、ストレス下での代謝異常の進行が早まるケースがあり得ることが示唆された。今後は、野外における対象種の分布と合わせて調査を実施しつつ、サンゴの体サイズと代謝異常のパターン間での相関性を明らかにしつつ、各分布域における環境変動の程度、野外環境でみられるサンゴ斃死状況との考察をおこなう予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目的であった、特定種における代謝に関する基礎的測定データを取ることが出来たと評価する。さらに、実験系では野外での状況に合わせて、段階的なストレスを再現すべく温度コントロールが可能な実験系において野外から採取したサンゴ個体群を中心としたストレス暴露実験系が実施できた。本研究の特徴である非破壊的な測定方法を2つ組み合わせることで、同一サンプルに対しての繰り返し測定時に信頼性の高いデータ取得が可能になったと考えられる。また、今後の種間比較・個体群間比較を行う上でも重要な「体サイズ依存性」の温度ストレス応答について、対象種の生活環のなかでも特定の時期(サイズを持つ時期)に影響を受けやすい可能性を示唆することが出来た。これらの事から、個体群における体サイズグループ間での分布に特性を持ったサンゴ種にとって、あるサイズ(生活史段階)の個体の生息環境で特異的に起こる変動/応答に起因する個体群の齢構成におけるアンバランス状態も起こり得ることから、個体群維持機構の議論に重要な知見になると思われる。
今後は、これまでの知見を活かして、実験系における結果と野外個体群間での知見のギャップを埋めるべく、より詳細な分布調査を実施する。特にCtenactis echinataについては、生息環境の環境指標種として利用可能かどうかを検討しつつ、実験・調査結果の解析と議論を進める。
野外調査場所を近接する海域に設定したため旅費が減少した。H26年度調査で実施する野外調査にて旅費として使用予定である。
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