研究実績の概要 |
近年,気候変動の影響によって,サンゴ礁域での成体サンゴ群体の減少だけでなく,サンゴの新規個体の加入量減少,定着・成長率低下などが引き起こされていると考えられている.昨年度はトゲクサビライシをモデル生物とした実験により,体サイズの違いによって環境ストレス影響が代謝の違いを引き起こす程度が異なること明らかにした.本年度は,定着直後の稚ポリプの成長に対して環境変化がどのような影響を及ぼすかに焦点をおきつつ,褐虫藻獲得の有無により,稚ポリプの初期成長がどのような影響を受けるかを明らかにするための実験を実施した.実験では,コユビミドリイシの配偶子から得られた,褐虫藻感染稚ポリプと褐虫藻非感染稚ポリプを,複数の温度条件や光条件下において飼育する実験系を用いた.褐虫藻を持つ稚ポリプでは,褐虫藻を持たない稚ポリプに比べて,いずれの温度条件下においても,高い成長量が示された.また,異なる温度条件間では褐虫藻の有無に関わらず31℃条件区で最も高い骨格重量の増加が示された.これらの結果から,稚ポリプにおける定着直後の初期成長においては,比較的高い水温に対する耐性が示唆される一方で、浮遊幼生として高緯度域に流れて行った場合の定着場所で想定される低温条件下では,成長が阻害されうることが示唆された.併せて,放卵放精型の繁殖様式をもち幼生分散能が高いと考えられるコユビミドリイシにおいての,これら稚ポリプの初期成長における低水温感受性の存在は,高緯度地域における本種の分布制限要因となっているかもしれないことが示唆された.
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