研究課題/領域番号 |
24710032
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐藤 圭輔 立命館大学, 理工学部, 講師 (30456694)
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キーワード | 放射性物質動態 / 流域モデル構築 / 夏井川流域調査 |
研究概要 |
25年度の研究助成事業では,24年度事業に引き続き,2回(通算5回)の福島県夏井川流域調査を行った.森林土壌,水田土壌,河川・湖沼底質,河川・湖沼水などのサンプリングを行い,LaBr3およびGe検出器を用いてセシウム137とセシウム134が定量された.濃度が低い河川水や湖沼水のセシウム濃度を測るため,ディスク濃縮法(選択的セシウム吸着ディスクに10L以上の水を加圧強制通水)を利用しているが,濃縮効率(濃縮時間や回収率)が試料によって異なるため,最適なオペレーションの方法を検討した.低濃度の環境水におけるセシウム濃度を検出下限以上にて測ることは,セシウムの環境動態(特に吸脱着・固液分配現象)を考える上で重要な成果である.得られた主な成果として,上流ホットスポットにおけるセシウム濃度(土壌,浸出湧水)が高止まりしていること,ダムや調整池の底質においても数千Bq/kgオーダーのセシウムが残留していること,固液分配係数(SSと環境水の濃度比)は既報値よりやや高めの数十万~数百万程度という結果が得られている.これらのことから実環境におけるセシウムの強い吸着性と吸着態としての移動性が再確認された. 一方,大気・流域流出モデル構築については気象データの入手・分析,可能蒸発散量と実蒸発散量の推計,小流域分割と各々の土地特性の定量化,流出過程をシミュレーションするためのコントロールファイルの作成等を行い,シミュレーションを試行する準備が整っている.本モデルでは疎水性の強い微量汚染物質(セシウムを含む)の環境動態をシミュレーションする上で最も重要であるSS流出の再現を重要視しており,それと調査結果から得られるパラメータや現象モデルとを併用することで微量汚染物質動態モデルの一般化を目指している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は現地広範における流域フィールド調査を行っており,低濃度セシウムを定量するため1試料につき20L以上を採取するなど,調査部分については当初の予定を超える規模で注力している.このことにより通常は得ることが困難な動態パラメータの導出にも成功している.精力的な調査でたくさんの試料が得られているが,その後の前処理(凍結乾燥,篩い分けなど),分析作業(土壌質・水質,粒径分布,セシウム濃度など)については,機器トラブルや測定上の限界があり,作業が一時滞る時期もあった.一部試料については依頼分析にて,機器についてはリカバリしながら作業を進めた結果,現在では順調に実験作業が進んでいる. ダイオキシン類の動態モデルについては野洲川流域を中心に開発された.琵琶湖流域に拡張するための準備(琵琶湖流入支川の流域モデル構築)も概ね完了しているが,モデル適用性の検証やダイオキシン動態モデルの反映は今後の作業としている.そのため,この点については若干の未達部分がある. セシウム動態モデルの構築に関わっては,24年度~本年度事業にてセシウム134と137の濃度比に基づく起源影響の推定を行い,滞りなく結果が得られている.また,国際的(汎用的)に利用されている放射性物質の動態モデルを活用し,現地調査にて得られた動態パラメータやGISデータを利用することによって夏井川流域への現地適用を行った.流域モデルとの連携など一部の作業について今後の課題としている. その他,26年度事業に予定していたダム湖の調査・分析は25年度から先行して実施している点も考慮し,以上全体として「(2)おおむね順調に進展している.」という自己評価を設定した.
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今後の研究の推進方策 |
1.24-25年度事業にて得られた多くのサンプルについて引き続き前処理作業と定量実験を進めていく.特に放射性セシウムと一般的土壌特性との関連性に注目した実験を行う.また,環境水のディスク濃縮とセシウム定量には1検体あたり数日間を要するが,律速となっている濃縮部分について1系統増やして2系統体制に改善(増強)を図る. 2.予定していた夏井川流域におけるダム湖の調査に加えて,これまで継続的に行ってきた地点にて同様のサンプリング調査を行う.調査は年2回を予定し,現地訪問の際には監督官庁にて行政データの入手も予定する.琵琶湖流域についてもデータ収集を主体に,必要に応じて現地調査を行うことを予定する. 3.モデル構築の点では,無償公開モデルを活用しているため最低限の予算執行を予定しており,特にシミュレーション結果を検証可能な観測データ収集に注力する.最終事業年度であるため,これまで独立して構築してきた「大気・沈着モデル」,「流域・流出モデル」,「ダイオキシン類動態モデル」および「放射性物質動態モデル」を連携させる仕組みを考え,統合システム化することを達成目標とする.このシステム化については必要に応じて簡易アプリケーションを開発するための予算を予定する. 4.研究開始3年目に入り,得られた結果を広く公開するための論文投稿,学会発表を行う.具体的には,日本水環境学会,IWA関連の学会等を予定する.その他,放射性物質動態に関わる研究者連携も進みつつあり,こういったメンバーでの集会にて情報提供や情報収集,研究交流を予定する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(繰越額)が生じた主な理由としては,本研究に必要な物品の一部が既存設備で利用できたこと,また,本学内の関連研究予算にて科研費で実施する研究の一部(消耗品や出張旅費)がサポートされたこと,最も費用がかかる放射性物質関連の消耗品類の調達が一部後ろ倒しになったことが挙げられる.特に現地調査のための学生旅費や現地費用の大部分が別予算で手当て出来たため,26年度事業に必要となる重点研究作業に予算を持ち越すこととなった. 分析実験を進めるための消耗品類を調達する.セシウム吸着ディスクが最低でも数十枚以上,環境水濃縮のための強制通水装置の追加導入,および試料分画や定量実験に関わるアルバイト代などが主な執行予定となる.ダイオキシン類の分析は,本学内の施設上の制約から,依頼分析にて対応する予定とし,その費用を予定した.一方,夏井川流域の調査は,4名程度の体制で年間で2~3回予定する.採水・採泥などの作業を併行して行うため,安全上の観点からも複数名での調査が必須であり,これらに関わる旅費と調査アルバイト代に加え,現地移動のためのレンタカー関連費用も計上した. 動態モデル関連の予算としては,データ収集に伴う費用(情報料,加工量など)および統合システムのアプリ開発に関わる費用と,これらを保管・運用するサーバについての費用を予定した.その他,論文投稿,研究発表(日本水環境学会など),情報収集に関わる経費・旅費を計上する.
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