本調査に基づく動態推定の結果,多くのCsが流域土壌に留まるが,沈着後に表層に堆積したCsが降雨流出(特に原発事故後の早い時期)によって粒子態として下流に移動し,現在も下流に影響を与え続けていることが予測された.流出したCsの多くは森林域ではダム湖,沢出口付近,農地では調整池,市街地では排水溝などに粒子態で存在していた. 分画試料ごとのCs-137濃度と粒径との関係を分析した結果,水田土壌のCs-137濃度は粒径に依らずに一定となり,森林土壌のCs-137濃度は表面吸着の影響を受けて,明確な比表面積依存性を示した.森林土壌の粒径別Cs-137濃度と有機炭素含有率との関係を分析した結果,強い相関が得られた.実環境中においては,ダイオキシン類と同様に有機炭素含有率がCs-137の濃度形成に対する影響因子の一つになっていることが示された. 原発由来Csの起源影響率を算定した結果,いずれの試料も総じて8割以上となり,特に塵埃や底質は高い値となった.Cs沈着後の速やかな流出とシルト・クレイの高いCs保持性が影響した結果と考えられた.一方,上流に位置する森林土壌や落葉は,流出によって少しずつではあるが,一方的に失われることが影響し,相対的に影響率が小さくなったと考えられる. 小玉ダム集水域におけるCsの経年変化をモデリングした結果,事故後まもなく濃度のピークが表れ,その後濃度が1桁低下するのに5年ほどを要することが予測された.動態パラメータとして重要な固液分配係数を算定した結果,いずれも10の5乗を超える値となり,夏井川や千葉県大堀川の既報値と同じか,1-3オーダー大きい値となった.本研究で対象としたホットスポット近くの上流河川のSS中Csは脱着過程(未平衡状態)にあること,SSの粒径が小さく,有機物濃度も高いため,環境試料においてはCsの分配は固相(SS)に優先することが示唆された.
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