研究課題/領域番号 |
24710035
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研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小川 亜希子 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (90455139)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 影響評価手法 / 鉄鋼 / 生体金属 |
研究概要 |
鉄鋼には、亜鉛やニッケルといった生体機能維持に重要な金属(生体金属)が多数使用されている。そのため、鉄鋼からの生体金属類が環境に及ぼす影響が懸念されているのだが、それらの有効な評価法は確立されていない。そこで本研究では、哺乳動物細胞の生理機能を用いた鉄鋼資材のための簡便な環境負荷評価法を構築していく。 平成24年度では、鉄鋼資材の環境負荷度の評価に適した(1)細胞種と(2)細胞機能の選定を行った。細胞種については、チャイニーズハムスター肺由来細胞V79、ヒト肝由来細胞株HepG2およびラット副腎髄質由来細胞PC-12を使用した。なお、細胞機能変化が見られたのは、細胞増殖能および細胞障害性についてであった。細胞形態の変化や細胞の大きさについては、金属濃度の増加に伴って変化の割合は顕著になったものの相関は低かった。また、電気信号を利用した検出系では、活動電位変化は検出されたものの、こちらも金属濃度との相関はえられなかった。結果、細胞増殖能および細胞障害性を指標とした評価を行った。 上記で構築した評価系を用いて、亜鉛およびニッケルについて細胞間で金属濃度に対する変化を比較した。亜鉛濃度に対する感受性はV79が最も高く、HepG2、PC-12の順に小さく、亜鉛取り込み能と関連があると予想された。ニッケルに対する感受性については、V79が最も高く、PC-12、HepG2と続き、亜鉛添加時の反応と異なることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、鉄鋼資材の環境負荷の程度を簡便かつ定量化する評価系の構築を目的としている。その手段として哺乳動物細胞の生理機能変化を利用することを計画し、光化学反応」、「顕微鏡画像」あるいは「電気信号」を利用した検出系で生理活性変化を定量した。チャイニーズハムスター肺由来細胞V79、ヒト肝由来細胞株HepG2およびラット副腎髄質由来細胞PC-12という3種類の哺乳類動物細胞を選定後、各々の細胞種について細胞機能変化を計測した。これらのうち、生理機能変化の程度が試験した金属濃度と相関があったものは、光化学反応のうち細胞増殖能および細胞障害性であった。しかしながら、より高精度な(金属濃度)変化を検出するには、細胞数計測とトリパンブルー染色法による生死判定を利用した法が良いことも分かった。このため、使用する検出系の変更が必要であった。 続いて、3種類の哺乳動物細胞間で、鉄鋼で使用される亜鉛とニッケルを対象として、各々の金属が哺乳類動物細胞の増殖能と細胞障害性に与える影響を比較した。結果、細胞種間で亜鉛およびニッケルの作用濃度が異なっていた。また、亜鉛とニッケルを同時に細胞に作用させた場合には、各々の金属を添加した場合よりも亜鉛の場合にはより低濃度で作用し、ニッケルの場合にはより高濃度で作用した。これらの結果から、複数の金属種を組み合わせた場合には、個々の金属を作用させた場合とは異なる作用をするものと推測される。 従って、複数の金属を組み合わせた場合の細胞機能の変化および金属の作用機構の解明も行っていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、選定した3種の細胞間で、亜鉛取り込み能が異なる原因を解明するため、亜鉛取り込みに関連するタンパク質発現について比較する。現在候補にしているのは、亜鉛トランスポーターとメタルチオネインである。 また、鉄鋼資材で頻繁に使用されている金属を対象に、増殖能および細胞障害性に対する濃度の影響を比較していく。対象とする金属は、亜鉛、鉄およびクロムである。この時、個々の金属だけでなく複数種の金属の組み合わせた場合についても影響を比較する。 さらに、哺乳動物細胞の生理活性評価系を利用し、実際の鉄鋼資材の環境負荷度を評価する。環境負荷が問題となるのは、鉄鋼資材の劣化・腐食によって金属が溶出するからだと考えられるため、培養器を半透膜で上下に分離し、下部には鉄鋼資材の切片を入れ、上部には哺乳動物細胞を入れて培養し、増殖や細胞障害性を評価する。このシステムでは、鉄鋼資材が継時変化で劣化(腐食)されると、そこから溶出した生体金属(化合物)類が半透膜を通過して細胞に取り込まれる。一方、細胞から分泌されるタンパク質などの高分子は半透膜を通過しないため、生理活性測定には支障がないと考えられる。 続いて、生理活性変化が確認された時点で培養系から鉄鋼資材を取り出し、鉄鋼資材の物性分析を実施する。これについては、鈴鹿高専の兼松教授と三重県工業研究センターの樋尾博士の協力を得て、X線光電子分光法と走査型電子顕微鏡(SEM)による表面分析、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)による培養液中の生体金属濃度を測定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞種間で亜鉛取り込み能が異なる原因を解明するため、亜鉛取り込みに関連するタンパク質発現量を比較していく。関連タンパク質の検出法として、対象とする亜鉛トランスポーターやメタルチオネインを抗原とした抗体を利用し、蛍光顕微鏡観察やプレートリーダーを用いて定量する。なお、使用している3種の細胞は、各々由来(動物種)が異なるため、同一な抗体を使用できず、1種類のタンパク質の検出に対して2種類の抗体が必要となるため、合計で12種類使用予定である。 また、細胞増殖および細胞障害性に対する亜鉛や鉄、クロムの影響を解明するため、引き続き哺乳動物細胞を利用した評価を行っていく。このため、細胞培養に必要な培地ならびに培養器材を購入する。 続いて、実際の鉄鋼資材を対象として、細胞増殖および細胞障害性に与える影響を哺乳動物細胞の生理機能を利用して評価していく。この時には、細胞培養に必要な培地、半透膜を有する培養器材ならびに鉄鋼資材の購入が必要となる。また、評価後の鉄鋼資材の分析で使用するSEM、培養液中の金属濃度の分析に使用するICP-AESについて、運転に必要な試薬類の購入も行う。 なお、当該年度の成果を公表するために、7月、9月および3月に開催される関連学会で発表準備を進めている。そのため、旅費ならびに学会参加費用が必要である。さらに、本研究を通じて得られた知見をまとめ、関連の学術雑誌に投稿する予定だ。これに必要な費用(英文校閲や投稿費)も併せて準備していく。
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