昨年度までに、耕作放棄地の分布と絶滅危惧植物の分布が全国的に重なっていることを示したが、放棄が絶滅危惧植物に対してどう影響しているかは不明のままであった。詳細に耕作放棄と絶滅危惧植物の関係を検討可能にするため、全国を対象に耕作放棄地の内訳を細分化した。具体的には、全国の農地における土地の区画化、圃場整備履歴の有無を農林水産省の調査結果から取得し、その分布と耕作放棄、絶滅危惧植物の分布それぞれの間の関係を検討した。その結果、整備履歴があり、かつ現在放棄が進んでいる地域が存在しており、これらは排他的ではないことが示された。さらに地域2次メッシュ(約10km四方)内における農地が全て区画化、圃場整備されている場所では、絶滅危惧植物がほぼ分布できなくなっていることが明らかになった。同じ解析を1kmメッシュ(約1km四方)で神奈川県のみを対象に行ったところ、ほぼ同様の結果が得られた。これにより、少なくとも過去に区画化、圃場整備が行われた場所では、放棄状況に関わらず、絶滅危惧植物の分布域として不適であることが明らかになった。この結果により、放棄状況に関係なく絶滅危惧植物が分布しない地域を排除することが可能になった。すなわち、放棄による生物多様性第二の危機が起こっている、あるいは今後起こるであろう地域を全国的に地図として示すことが可能になった。
3年間の研究において作成された農地利用、放棄地図の公開については、予定どおりインターネット地図、あるいはGISで利用しやすいタイルマップ形式でデータの閲覧および取得ができるシステムを開発した。ただし、データセットそのものを査読付き論文(データペーパー)として投稿中であるため、本報告書作成時点(2015年5月)では一般公開はしていない。データペーパーが受理され次第、オープンデータとして公開し、誰でも自由に利用可能にする予定である。
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