研究課題/領域番号 |
24710054
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
熊澤 輝一 総合地球環境学研究所, 研究推進戦略センター, 助教 (90464239)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 地域づくり / 知識移転 / 知識継承 / 知識共有 / オントロジー |
研究概要 |
本研究では、地域で蓄積された知識と同時代的な地域づくりの知識を統合的に扱い運用することに着目し、オントロジーを用いた地域づくりにおける知識継承・移転支援システムを構築することを目的としている。この目的を果たすために、平成24年度は以下の三項目を計画し、実施した。 1.フィールド調査の実施と情報抽出:石川県能登半島地域で農業を継承し、現在の状況に適応しながら特徴的な取り組みを進めている若手農業従事者に対して聞き取り調査を行うなど、各種フィールド調査を実施し、状況を把握した。また、地域で蓄積された知識が継承されている事例の候補として、大阪府高槻市、京都府木津川市を抽出した。情報の抽出にあたっては、大阪府高槻市、石川県能登半島地域で先行して実施した同形式の調査結果について作業を行った。 2.フィールド情報のコード化、データセット作成:(1)で抽出したフィールド情報を、質的調査の代表的手法であるグラウンデッド・セオリーを用いてコード化した。コード化した結果を、研究代表者らが構築してきたサステイナビリティ・サイエンス・オントロジー(SSオントロジー)の最上位概念である「問題」「対策」と対応付けることで、フィールド情報とオントロジーとを接続するための手順を示した。1,2の成果の一部については、平成25年度の人工知能学会大会で報告することになっている。 3.オントロジーの構築:研究代表者らが構築してきたサステイナビリティ・サイエンス・オントロジー(SSオントロジー)を本研究に適用することの適切さを検証する作業として、Sustainability Science誌に投稿し、査読付論文として採択され、Online Firstで発信された段階にある。 なお、本研究の枠組みと本年度の成果の一部を説明している解説論文を人工知能学会誌に寄稿し、7月号(予定)への掲載が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.フィールド情報のコード化作業の遅れ フィールド情報のコード化の視点について、研究計画では、「オントロジーとの接続に向けた措置として、時期、場所、主体、対象、方法、理由、と5W1H に従う」としていたが、より詳細なアプローチであるグラウンデッド・セオリーを採用したことにより、一つの聞き取り調査のコード化作業にかかる時間が大幅に増加し、作業の負荷が著しく上がったため。 2. 聞き取り調査等の実施と情報抽出の遅れ グラウンデッド・セオリー・アプローチでは、一つのサンプルデータを収集したら分析を行い、その結果を踏まえて次のデータ収集に行くという作業を繰り返す。1のコード化作業が遅れているので、次の聞き取り調査を行う時期も遅れている。現在はこのような状況にあり、コード化前のフィールド情報の抽出についても遅れが生じている。また、申請時に進行していた総合地球環境学研究所の連携FS「能登半島における持続可能な社会構築のための環境半島学の提言」事業について、平成24年度以降の継続発展に向けた研究提案が採択されず、研究体制と推進方法の変更が迫られたことも影響している。 3.オントロジーの構築作業の遅れ SSオントロジーの設計に関する論文の修正に、平成25年1月までの期間を要したため、SSオントロジーを基礎としながら本研究課題に適合した発展形の構築作業に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
1.フィールド調査の継続とコード化作業の継続:フィールド調査を継続し、聞き取り調査やワークショップの結果から、コード化のためのテキスト情報を抽出する。抽出したテキスト情報をグラウンデッド・セオリー・アプローチによりコード化する。サンプル数は、手法の精緻さに伴う作業負荷の増加を考慮して5件程度とする。 2.オントロジーの構築(続き)、再利用可能知識と地域個性知識の明示:前年度に引き続きオントロジー構築を進める。概念数は、2,000程度を予定している。地域依存性の高い資源を用いて定義される物は、「概念」ではなく現実世界にある「個物」として扱われる。「概念」として定義される物が再利用可能な知識であり、「個物」として明示される物が地域の個性となる。オントロジー構築の結果として、これらを明示する。 3.データベース構築、オントロジーの接続の実装:SQL(Structured Query Language)サーバを立ててデータベースを構築し、入力された「コード化されたフィールド情報」等を格納する。また、構築したオントロジーとの接続を図る。 4.Web 上での試験実装・実現性評価:オントロジーをWeb上での実装が可能なRDF(Resource Description Framework)に変換し、Web上にあるホームページ等との接続を図る。実現性評価では、用意した複数の例題から、本研究で構築した、知識継承・移転支援システムの導入による効果と課題を示す。最後に地域づくり支援への提言を行う。なお、今回は、プロトタイプを構築することを通じて、支援システムの全体スキームを提示することに主眼を置いている。このため、オントロジー及び支援システムの評価実験は、プロトタイプとしての提示を許容できるかどうかを判断するのに必要な作業にとどめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.フィールド調査の継続とコード化作業の継続のために、国内旅費、聞き取り調査対象者への謝金、聞き取り調査等のテープ起こし作業に係る謝金等を経費として支出する。 2.オントロジーの構築にあたり、オントロジー工学や環境情報学分野の専門家に意見提供を乞う予定である。これに係る国内旅費を支出する。 3.データベースの構築にあたり、専門的知識と意見の提供に係る謝金と作業補助に関する謝金を支出する。 4.Web上での試験実装にあたり、RDF化のために必要な専門的知識と意見交換に係る謝金、Linked Open Dataとオントロジーとの連携に関する最新の知見を得るための研究会等への出席に関する国内旅費、オントロジーを公開するためのホームページ作成の補助に係る謝金を支出する。 5.本研究の成果を国内外で発表することを目的として、これに係る国内旅費、外国旅費を支出する。また、成果公開のための必要経費として、英文校閲謝金、学会投稿料、論文別刷代、学会参加費、国際会議参加費等を支出する。 6.地域づくり、知識継承、知識移転、知識共有、オントロジーに関する事例と知見を収集するための文献等を購入するための経費を支出する。
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