相同組換え(HR)と損傷乗り越え合成(TLS)は、ゲノム損傷許容機構として働く。HRでは、損傷により停止した複製フォークがHRにより処理され複製が再開される。TLSでは、TLSポリメラーゼが損傷により停止した複製ポリメラーゼに一時的にスイッチし、損傷部位のDNA合成を行う。しかし、停止した複製フォークがどのような機構で処理され、さらに複製が再開されるかについての詳細は明らかにされていない。前年度は、複製フォークの再活性化におけるHRの役割を検討した。その結果、Chinese hamster由来HR欠損細胞が、修復野生型細胞に比べ抗がん剤の一種であるDecitabineに高感受性を示すことを明らかにした。本年度は、ゲノム損傷誘発性抗がん剤として、トポイソメラーゼ阻害剤(CPT、VP16)およびプラチナ製剤(cisPt、L-OHP)を用いて、HR欠損細胞の感受性を検討した。HR欠損細胞は、トポイソメラーゼ阻害剤およびにプラチナ製剤いずれに対しても高感受性を示した。また、抗がん剤処理した細胞のDNA二本鎖切断(DSB)を電気泳動により調べた結果、トポイソメラーゼ阻害剤ではDSBが起こっているが、プラチナ製剤ではDSBは起こっていないことがわかった。従って、トポイソメラーゼ阻害剤・プラチナ製剤いずれの場合も、複製フォーク再活性化にHRが必要であるが、その機構が異なっていることが示唆された。TLSについては、TLSポリメラーゼ欠損MEF細胞のDecitabine感受性を調べた。その結果、Decitabine感受性を示すTLSポリメラーゼ欠損細胞と感受性を示さない欠損細胞があることがわかった。今後、TLSが単独で働くのかあるいはHRと共同して働くのか検討していく必要がある。
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