研究概要 |
小児期の放射線被ばくは甲状腺発がんの危険因子で40歳以上でリスクは消失する。甲状腺濾胞上皮の放射線被ばくによる感受性の年齢影響を調べることを目的に、週齢の異なるラットに放射線照射後急性期の組織変化、DNA損傷応答分子53BP1とオートファジー(AP)の発現を比較検討した。4週齢(4W)、7週齢(7W), 8ヶ月齢(8M)の雄性ウィスターラットに8GyX線全身照射後0, 3, 6, 24, 48, 72時間の甲状腺組織を採取し、濾胞上皮細胞におけるKi67陽性細胞数、TUNEL陽性細胞数、53BP1 核内フォーカス数を解析した。Western blotにてp53, Ser15リン酸化p53, p21, cleaved caspase-3(CC3)の発現と、AP関連蛋白であるLC3-IIとp62の発現を継時的に解析した。電子顕微鏡によるAP像の観察を行った。Ki67陽性細胞数は照射後72時間で4W群では11%から1%, 7W群では4%から0.3%に減少したのに対し、8M群は0.2%のままだった。いずれの群でも放射線誘発アポトーシスは確認されなかった。53BP1核内フォーカス数とSer15リン酸化p53の発現は3, 6時間後に増加したが、週齢による差は認められなかった。p21とCC3の発現増加は見られなかった。4W群では照射後細胞質膨化が多数観察され、電顕観察では6時間から小胞体の拡張と分泌物の貯留が認められた。さらに4Wと7W群において、AP像が72時間後まで観察されたが、8M群ではほとんど見られなかった。4W群においてLC3-II/LC3-I比とp62の有意な発現増加が24時間後に見られたが、8M群では確認できなかった。照射後急性期でのDNA損傷応答とp53の活性化に年齢影響は見られなかったが、若齢群は放射線誘発APに高感受性で、今後晩発性発がんに関与しているかもしれない。
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