研究概要 |
小児期の放射線被ばくは甲状腺発がんの危険因子で、40歳以上でリスクは消失するとされている。そこには濾胞上皮の急性期放射線応答の年齢影響が示唆されるが詳細は不明である。平成24年度の研究で放射線照射後急性期での未熟及び成熟ラットの甲状腺組織を比較したところ、両群共アポトーシスは誘導されず、53BP1核内フォーカス数とSer15リン酸化p53は増加したが週齢による差は認められなかった。照射後急性期でのDNA損傷応答に年齢差は見られないと考えられる。しかし、未熟ラット甲状腺濾胞上皮では、増殖細胞数の低下、細胞質の膨化を示す空胞化細胞の増加、電顕によるオートファジー像の増加が見られ、LC3-II/LC3-I比とp62の発現増加が認められたが、成熟ラットでは誘導されなかった。 今年度は未熟(4週齡)及び成熟(8ヶ月齡)ラットにX線8Gy全身照射後24時間の甲状腺組織からRNAを抽出し、Autophagy PCR Array解析(キアゲン)を行った。Autophagy PCR Arrayは、オートファジー経路に関与する51遺伝子のmRNAレベルを定量PCRに供することで、解析することができる。放射線照射後甲状腺で、どのようなオートファジー関連遺伝子が変化しているか調べたところ、オートファジー誘導に関与するAtg12, Atg16l2, Atg9a, Ctss, Irgm, Maplc3は未熟ラットで発現増加が見られたが、成熟ラットでは見られなかった。しかし、両週齡共、アポトーシスに関与するFas, Dapk1, caspase 3とミトコンドリア機能に関わるPink1の発現増加が見られた。両週齡共、放射線照射によりプロアポトーティックな遺伝子の増加が見られるが、いずれかのパスウェイがブロックされてアポトーシスにいたらない可能性が示唆された。一方未熟ラットでは照射後オートファジー関連遺伝子の増加が確認された。未熟ラットでは成熟ラットに比べ、オートファジーにより多くの損傷を受けた細胞内オルガネラガが排除され、生存に働いているのかもしれない。
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