研究概要 |
胎内被ばくに起因した発がんのリスクを考察する際の基礎データとして、我々はこれまでに原爆胎内被爆者の末梢血リンパ球や胎児期に照射したマウス造血細胞では染色体異常(転座)がほとんど観察されないが、胎児期照射ラットの乳腺上皮細胞では血液細胞と異なり、被ばくの影響が母親と同様に残っていることを報告し、胎児期被ばくにより生じる転座の頻度が組織によって異なる可能性があることを示してきた。本研究で新たに行った胎児期に被ばくしたマウス甲状腺上皮細胞の実験では分析細胞数を昨年度から上積みし、最終的に1,000細胞以上の分析が完了した。胎児期に2Gy照射されたマウス(F群)では解析した1,155細胞中30個、以下同様に、2Gy照射された母親マウス(M群)では1,149細胞中39個、非照射コントロールマウス(C群)では1,007細胞中0個の転座を検出した。転座頻度はそれぞれF群2.6%、M群3.4%、C群0.0%となり、転座が観察されなかったC群に比べ、F群とM群はほぼ同程度の転座が観察された。この結果はラット乳腺上皮細胞の結果と類似しており、それ故に血液細胞と非血液細胞では胎児期被ばくの放射線感受性が異なる可能性があることがより明確になった。また胎児照射の時期をこれまで行っていた妊娠15.5日目(器官形成期後の胎生期)から妊娠7日目(器官形成期前)に変更した追加実験の結果(2/502 0.4%)は前述の結果(30/1,155 2.6%)と比べ頻度が異なったことから、マウス甲状腺上皮細胞の放射線感受性には被ばくの時期も密接に関わっていることも示唆された。また造血幹細胞におけるマウス胎児と成体との間における放射線感受性の違いを調べるために胎児、成体それぞれの造血幹細胞を培養し、培養中に照射したX線により誘発される染色体異常の頻度を両者で比較する実験を開始し、現在分析中である。
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