研究課題/領域番号 |
24710069
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宮宗 秀伸 千葉大学, 予防医学センター, 特任助教 (80422252)
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キーワード | 臭素化系難燃剤 / 内分泌かく乱物質 / 雄性生殖 / 精子形成障害 / 選択的スプラインシング |
研究概要 |
本研究では、Deca-BDE曝露によって生じる精子数減少の分子メカニズムを解析することを目的としている。特に、平成25年度の研究実施計画は、Deca-BDE曝露による雄性生殖への影響を、1) Deca-BDEによるマウス精巣および精巣上体における酸化ストレス誘導、および2) Deca-BDEによる甲状腺ホルモン受容体のアイソフォームならびにバリアントの発現レベル異常に着眼して解析・評価することであった。新生児期ICRマウスに対して、Deca-BDEが皮下注射によって0.025から2.5 mg/kg/day の量で生後5日間連続投与され、12週齢において評価された。 1)Deca-BDEによるマウス精巣および精巣上体における酸化ストレス誘導の評価について 我々は本項目で、酸化ストレスマーカーであるAdiponectinやFatty Acid Binding Protein 4の発現量が、Deca-BDE曝露によって精巣上体において有意に減少することを見出した。 2)Deca-BDEによる甲状腺ホルモン受容体のアイソフォームならびにバリアントの発現レベルへの影響評価について 本項目において我々は、精巣における甲状腺ホルモン受容体のアイソフォームならびにバリアントの発現レベルが、Deca-BDEによって有意に変動することを見出した。すなわちDeca-BDEによって、甲状腺ホルモン受容体αの発現減少と同時に、そのスプライングバリアントであるα1型が有意に減少し、α2においては変化が見られなかった。一方で受容体βでは、Deca-BDEによって発現の増加が認められた。加えて我々は曝露マウス精巣において、精子形成に必須とされるアンドロゲンレセプターの有意な発現減少を見い出した。 興味深いことに、Deca-BDE曝露マウス精巣から単離したセルトリ細胞においても、ほぼ同様の結果が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた項目1) については、精巣上体のみの解析にとどまった。しかしながら、項目2) については、甲状腺ホルモンのアイソフォーム、スプライシングバリアント、ならびにアンドロゲンレセプターの発現異常を精巣おいて確認した。さらに興味深いことに単離したセルトリ細胞においても類似の結果を確認した。このように項目2) において想定以上の成果を得ることに成功した。そのため、研究そのものの達成度としては、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24-25年度の我々の解析から、Deca-BDE曝露が、精巣やセルトリ細胞における甲状腺ホルモン受容体αの発現量減少、さらに選択的スプライシングの異常、アンドロゲンレセプターの発現減少を誘導することが明らかとなった。精巣においてアンドロゲンレセプターは、精子形成過程に必須の分子であることが報告されている。すなわち、我々の用いた曝露域において、Deca-BDE曝露は甲状腺ホルモン受容体の発現異常を介して、健康影響を誘導する可能性が示された。 我々はDeca-BDE曝露が甲状腺ホルモンαの精巣やセルトリ細胞における選択的スプライシングの異常を引き起こすことを同定したが、その分子機構は明らかになっていない。様々な先行研究によって、甲状腺ホルモンαの選択的スプライシングには、heterogeneous nuclear ribonucleoprotein (hnRNP) A1を含む複数のスプライシングファクターが関わっていることが報告されている。すなわちDeca-BDE曝露によってこれらのスプライシングファクターの発現異常が引き起こされ、その結果、甲状腺ホルモンαのスプライシング異常が生じている可能性が想定される。 平成26年度では、年次計画6) および7) にしたがい、Conputer-associated sperm analysisを用いた、曝露成熟精子の運動能などの解析、ならびにCOMET assayやSperm chromatin structure assayによる曝露マウス精子のクロマチン構造異常やDNA切断などの評価を行う。加えて、上記の仮説にしたがい、Deca-BDEが甲状腺ホルモン受容体のスプライシングバリアントの発現異常を引き起こす分子機構についての解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は、予定した解析項目のうち、精巣における酸化ストレスの評価には至らなかった。そのため、次年度使用額が発生した。 当該金額によって平成26年度に精巣における酸化ストレスの評価を行う。 あるいは、今後の研究の推進方策にも記載した通り、甲状腺ホルモン受容体のスプライシング制御ファクターの解析を行う。
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