研究課題/領域番号 |
24710080
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研究機関 | 石巻専修大学 |
研究代表者 |
玉置 仁 石巻専修大学, 理工学部, 准教授 (30364417)
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キーワード | 東日本大震災 / 藻場 / 干潟 / 津波堆積物 |
研究概要 |
東日本大震災による藻場・干潟生態系の撹乱とその後の回復過程,および後背地に集積した津波堆積物の性状の理解を目的として,研究を行った。調査対象として,地震・津波の来襲を受けた石巻沿岸のアマモ類藻場(鮫浦湾),干潟(波津々浦湾)とその後背地,ならびに東松島市矢本地区を選定した。 1. 藻場・干潟が震災により受けた撹乱とその後の回復過程 アマモ類藻場:湾西側に位置する当該ラインでは,震災に伴う地盤沈下については比較的軽微であると考えられたが,底質中のシルト分の大幅な流出を確認しており,津波による物理的撹乱の影響は甚大であったことが推察された。またアマモ類に関しては,震災前に比べて著しく減少しており,津波による草体流出が示唆された。2013年春には若干とはなるが,タチアマモ群落の広がりが認められ,藻場の回復が期待された。 干潟:震災により,最大で0.8mの地盤低下が認められた。これら地盤高の低下した場所では,底質の泥化と汚濁化が観察された。干潟生物相の個体密度に関しては,2006年時に比べて,2011年には25%減となったが,その後,腹足綱の増加により,震災前のレベルまで回復していた。一方,アサリ密度に関しては,震災以降,減少傾向となった。 2. 津波堆積物の性状評価 津波堆積物中の金属含有量に関しては,土壌汚染対策法の基準を下回っており,その有害性は低いと推定された。地点間の変動があるが,概ね矢本地区に集積した津波堆積物に含まれる金属含有量は,他地点に比べて高い傾向を示した。市街地を擁する矢本地区では,震災以前には海域への多量の負荷があったと推察され,このことが津波堆積物の性状の差に反映したものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東日本大震災により撹乱を受けた藻場・干潟生態系の回復過程,および後背地に集積した津波堆積物中の金属含有量を把握することを本研究の平成25年度の到達目標とした。 震災前後の藻場・干潟生態系の状態を比較することにより,これらの生態系が東日本大震災により受けた撹乱の程度とその後の初期回復過程を明らかにした。藻場については現場での回復が未だ明瞭とはならない,また干潟に関しては,アサリが減少傾向とはなるが,これらに関しては次年度も継続調査を行うことにより,その後の回復過程を明らかにしていきたいと考えている。 後背地に集積した津波堆積物の性状評価に関しては,堆積物中の金属含有量の把握,ならびにこれら全てが土壌汚染対策法の基準を下回っており,有害性が低いことを明らかにした。 以上の理由から,本研究の進行状況を概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
藻場・干潟生態系が震災により受けた撹乱からどのように回復するか,その中期的な回復過程を明らかにする。またこれらの生態系の後背地に集積した津波堆積物の環境修復材としての評価を行う。平成25年度と同じ藻場・干潟とその後背地を対象として,継続的な調査を行う。 1. 大規模撹乱からの回復:震災による撹乱からの中期的な回復過程を明らかにするため,藻場・干潟生態系の変化を追跡する。 2. 環境修復材としての津波堆積物利用の妥当性評価:津波堆積物の集積が認められる場所の地先では,震災による干潟地盤の沈下やアマモ場底質の流出が確認されいる。そこで後背地の陸土や地先の海底質との比較に基づく津波堆積物の物理化学的特性を明らかにして,さらにこれら堆積物を干潟地盤の嵩上げ材やアマモ場底質の埋め戻し材に用いることで,藻場・干潟生態系の回復を補助しうるのかを水槽実験にて検証する。津波堆積物の添加率の異なる条件を水槽内に作成した藻場・干潟に適用し,有効性を検証するとともに,その改良も試みたい。 蓄積された調査データならびに室内実験データをもとに,東日本大震災により撹乱を受けた藻場・干潟生態系の回復過程を明らかにするとともに,汚染のない津波堆積物を用いての藻場・干潟修復技術を検討し,津波堆積物処理法の一つのモデルケースとして提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果発表に係る旅費として9万円程度を予定していたが,学会発表場所が近隣の東北大学であったため,その計上分が繰越金となった。2回分の藻場調査費として20万円程度計画していたが,うち1回は荒天による調査中止,残り1回分に関しては潜水士雇用に係る謝金が不用となった。物品費に関しては計上額よりも10万円程度支出超となったことから,上記未使用額との差分により,計21万円程度が繰越金となった。 平成26年度の研究費(平成25年の繰越分を含め,計1,021,269円)の使用計画としては,現地踏査,ならびに津波堆積物の化学分析等にかかわる物品費に51万円程度を計上している。なお津波堆積物の分析にあたっては,新潟薬科大学の小瀬知洋助教(研究協力者)の協力が必要となることから,その打合せのための交通費等にかかる費用として,10万円程度の謝金を予定している。また干潟生物同定にかかる費用(外注)として,10万円程度(4地点分)を計上している。なお藻場調査に関しては,潜水士の雇用が不可欠となり,2回分の調査費用として,20万円程度を計画している。また本研究成果発表等のための旅費として10万円程度を計上している。
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