東日本大震災による藻場・干潟生態系の撹乱とその後の回復過程,ならびに後背地に集積した津波堆積物の性状と環境修復材としての利用性の検討を目的として,研究を行った。調査対象として,地震・津波の来襲を受けたアマモ類藻場(鮫浦湾),干潟(波津々浦湾)とその後背地,および東松島市矢本地区を選定した。 1. 藻場・干潟が震災により受けた撹乱とその後の回復過程 アマモ類藻場:地震と津波により草体が流出し、湾内のアマモ,タチアマモが大幅に減少した。その後,アマモに比べてタチアマモにおいて,震災前のレベルには達していないが,株密度の増加が認められた。震災後のアマモが増加しきれない一因として,地盤高低下に伴う水中光量減少の影響が推察された。 干潟:震災により,最大で0.8mの地盤高低下が認められた。これら地盤の低下した場所では,底質の泥化と汚濁化が観察された。2011年8月の干潟生物の個体密度に関しては,2006年時に比べて25%減となった。その後,腹足綱の増加により一旦増えたが,2013年には再び減少しており,未だ遷移過程にあることが示唆された。一方,アサリ密度に関しては,震災以降も減少しており,震災後にみられた底質中のシルト分増加がその回復を妨げている可能性が推察された。 2. 津波堆積物の性状評価と環境修復材としての利用 津波堆積物中の金属含有量に関しては,土壌汚染対策法の基準を下回っており,その有害性は低いと推定された。地点間の変動があるが,概ね矢本地区に集積した津波堆積物中の金属含有量は,他地点に比べて高い傾向を示した。市街地を擁する矢本地区では,震災以前には海域への多量の負荷があったと推察され,このことが津波堆積物の性状の差に反映したものと考えられた。また津波堆積物を加えた底質を用いてアマモ出芽試験とアサリ浮遊幼生着底実験を行ったところ、アサリ幼生の着底において着底率の上昇を確認した。
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