研究課題/領域番号 |
24710093
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森 一広 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (40362412)
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キーワード | 中性子回折 / イオン伝導体 / 電池材料 |
研究概要 |
本研究の目的は、大強度陽子加速器施設/物質生命科学実験施設(J-PARC/MLF、東海村)に設置されている中性子回折装置を利用して、40ms毎に発生する大強度パルス中性子の特徴を活かしたミリ秒オーダー時分割構造観測技術の開発を行い、蓄電池研究(例えば、正極材や固体電解質中のリチウム位置の時間変化)等へ応用することである。中性子は、物質中の軽元素(水素やリチウム)の位置(構造)や動的挙動(ダイナミクス)の観測に優れていることから、本研究で開発したミリ秒オーダー時分割構造観測技術とダイナミクス観測を併用することで、電池反応等の軽元素に関連する非平衡状態の解明が期待される。 平成25年度は、J-PARCハドロン実験施設事故の影響により中性子回折実験を行うことが出来なかった。そのため、全固体セル(「LiCoO2|電解質(主に、Li2S-P2S5系超イオン伝導体)|Li(もしくはIn)」)の製作および充放電特性試験を行うと共に、充放電時中性子回折実験用蓄電池セル(単セル)の製作を進めた。また、作製した全固体セルの電池反応による構造変化を事前に確認するため、充放電時X線回折実験システムを構築した。一方、解析技術については、リバースモンテカルロ(RMC)モデリングとBond Valence Sum(BVS)解析を組み合わせた新しいリチウムイオン可動経路の視覚化技術を完成させた。この技術は、結晶/非晶質の両方に適用することが可能である。これにより、正極活物質や固体電解質中のリチウムイオンの位置および可動範囲を明らかにすることが出来るようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度にJ-PARC/MLFの中性子回折装置に対して中性子検出器を設置し、中性子データ積算システムを構築したことで、ミリ秒オーダー時分割構造観測を実施するための準備がすでに整備されている。昨年度(平成25年度)はJ-PARCハドロン実験施設事故の影響により中性子回折実験を行うことが出来なかったが、平成26年2月よりJ-PARC/MLF施設が再稼働したので、本年度(平成26年度)の中性子回折実験については実施可能となった。また、充放電時中性子回折実験用蓄電池セルの製作も順調に進んでおり、近日中に中性子回折実験を実施する予定である。また、RMCモデリングとBVS解析を組み合わせた新しいリチウムイオン可動経路の視覚化技術が完成したので、ミリ秒オーダー時分割構造観測によって中性子回折データを取得することで、直ちに詳細な構造解析を行うことができる。尚、新規蓄電池材料の物質探索については、メカニカルアロイング法等による試料作製、交流インピーダンス測定(電気伝導度測定)および新しく構築した充放電時X線回折実験システムを使用して、現在も継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の推進方策は、以下の通りである。(1)充放電時中性子回折実験用蓄電池セルを用いたミリ秒オーダー時分割構造観測の実施・・・充放電時中性子回折実験用蓄電池セルを使用してミリ秒オーダー時分割構造観測を行う。例えば、全固体セル(「LiCoO2|電解質(主に、Li2S-P2S5系超イオン伝導体)|Li(もしくはIn)」)を対象とし、正極活物質および固体電解質の構造変化について調べる。(2)新規蓄電池材料の探索および構造・電気伝導度の評価(継続)・・・平成25年度と同様、継続して物質探索および評価を行う。(3)リチウムイオンのダイナミクス観測・・・リチウムイオンの動的挙動について調べる。中性子準弾性散乱実験を計画中である。これにより、構造とダイナミクスの関係を明らかにし、電池反応に関する知見を得る。(4)本研究で開発したミリ秒オーダー時分割構造観測技術を様々な機能性材料にも適用し、これらの非平衡状態について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
充放電時中性子回折実験用蓄電池セルは現在も開発途中であり、ミリ秒オーダー時分割構造観測を行った後、本セル改良のために費用が必要となる。平成25年度はJ-PARCハドロン実験施設事故の影響によりミリ秒オーダー時分割構造観測の実験を行う事ができなかった。そのため、ミリ秒オーダー時分割構造観測の実験を早い段階で遂行し、平成26年度の予算と合わせて充放電時中性子回折実験用蓄電池セルの改良を進める。 使用計画を以下に示す。(1)充放電時中性子回折実験用蓄電池セルの改良費用。(2)ミリ秒オーダー時分割構造観測実験の出張旅費。(3)新規蓄電池材料探索のための試薬購入。(4)当該研究の成果を発表するための経費(論文発表、学会発表、研究会、等)。
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