研究課題/領域番号 |
24710100
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
鬼柳 亮嗣 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究員 (50521770)
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キーワード | 超プロトン伝導体 / 中性子構造解析 |
研究概要 |
本研究では固体酸と呼ばれる超プロトン伝導体の3次元的なプロトン伝導メカニズムと超プロトン伝導性発現の機構を理解する事にある.固体酸は内部に水素結合をもつ物質であり,水素結合の秩序・無秩序化がプロトン伝導に大きく関わっていると考えられている.この水素結合の秩序・無秩序化は相転移と共に実現されるため,プロトン伝導の起源を理解する上で相転移のメカニズムを理解する事は本質的に重要である.本研究ではこれまで,固体酸のうちRb3H(SeO4)2とK3H(SeO4)2の混晶であるRb(3-x)KxH(SeO4)2を研究対象とし、結晶構造と相転移温度の関係を調べてきた.昨年度の研究により,Rb(3-x)KxH(SeO4)2の相転移温度はxの値が大きくなるに従い低下するが,その変化はxに対して非線形であることがわかった.一方,昨年度は単結晶を用いた中性子回折実験も行っていたが,詳細な解析には至っていなかった. 今年度は得られていた単結晶中性子回折データの詳細な解析を行い,相転移温度と内部構造の関係を調べた.その結果,Kは,Rbが存在する結晶学的に独立な2つの原子位置(8f, 4e)のうち,一つの原子位置(4e)に優先的に入る事が明らかとなった.この4eサイトのK占有率の変化はxの値に対して非線形であり,相転移温度の変化と対応していることがわかった.つまり,このサイトの原子が相転移温度の決定に重要な役割を果たしている事が示唆された.また,各組成でのSeO4四面体の歪みを計算すると,歪みの2乗に対応する値と相転移温度の間には線形の関係があることが明らかとなり,SeO4四面体の弾性歪みエネルギーと相転移温度には密接な関係がある事も示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに混晶物質の合成,電気伝導度の測定,中性子単結晶構造解析を行ってきた.当初の予定では今年度は中性子やX線を用いた平均構造の決定を計画しており,中性子を用いた構造解析により平均構造と相転移温度の関係の重要な部分を理解できたと考えている.従って,平均構造からの物性の理解という意味において当初の予定通りに研究は進んでいると言える.また,既に学会等において研究成果の発表も行っており,内外に向けた積極的な結果の公表という意味においても順調に研究が進められている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでは混晶物質の物性と平均構造の関係に着目した研究を行っており,超プロトン伝導性の発現と平均構造の関係については重要な部分に関して概ね理解できた状況である.しかしながら、回折データから得られる平均構造とは時間/空間的に平均化された構造であり,イオンが動的な振る舞いを示すプロトン伝導体のより詳細なメカニズムを理解するには,局所的かつ瞬間的な振る舞いを理解する必要がある.そこで,残りの研究期間を使って動的な振る舞いに関する研究を行う予定である.具体的には,中性子準弾性散乱により得られる時空相関関数により伝導プロトンの時間発展的な動きを明らかにする予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
中性子実験を行う予定であったJ-PARC物質生命科学実験施設が突発的な事故のため運転停止となり、当実験で使用する予定であった物品等の購入が無くなった. これまでの研究結果を踏まえた上で、今後の中性子実験に用いる試料セルの作成や基礎測定に必要な機材の購入を予定している.
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