研究実績の概要 |
本研究の目的は、固体酸と呼ばれる超プロトン伝導体の3次元的なプロトン伝導メカニズムと超プロトン伝導性発現の機構を理解する事にある.固体酸は内部に水素結合をもち,相転移とともに起こる水素結合の無秩序化がプロトン伝導に大きく関わっていると考えられているため、本物質のプロトン伝導性の起源を理解する上で相転移のメカニズムを理解する事は本質的に重要である.これまで本研究では、固体酸の混晶であるRb(3-x)KxH(SeO4)2を研究対象として電気伝導度測定や結晶構造解析により相転移温度と構造の関係を調べてきた。電気伝導度測定の結果,Rb(3-x)KxH(SeO4)2の相転移温度はxの値が大きくなるに従い低下するが,その変化はxに対して非線形であることがわかった.一方,中性子構造解析の結果、各組成でのSeO4四面体の歪みと相転移温度の間には線形の関係があることが明らかとなり,SeO4四面体の弾性歪みエネルギーと相転移温度が重要な関係にある事が示唆された.また、中性子回折データを詳細に解析したところ、x=1,2の混晶試料のデータにおいて元の格子周期とは異なる位置に新たな反射が出現している事が明らかとなり、混晶においては母物質とは異なる構造となっていることが初めて明らかになった。 過去の研究により固体酸の超プロトン伝道相転移温度は圧力を印加すると低下することがわかっている。本研究により示唆されたSeO4四面体の歪みと相転移の関係を考慮すると、圧力の印加によりSeO4四面体の歪みが促され結果的に相転移温度の低下につながっていることが考えられる。圧力とSeO4四面体の歪みを直接観測するためには、圧力下での構造解析が必要であるため、今年度は高圧中性子回折実験用の試料セルを作成した。実際の実験は利用する中性子施設の長期停止により行うことができなかったが、今後の研究の道筋をつけることができた。
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