研究課題/領域番号 |
24710105
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業 |
研究代表者 |
吉良 弘 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, その他部局等, 技師 (50400239)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 中性子偏極デバイス |
研究概要 |
本研究には大きく分けて高気密ヘリウム3ガス循環ラインの開発、アルカリ金属担持ゼオライト膜の開発、ヘリウム3ガス偏極度測定・極性制御用電子回路の3つの開発要素が存在する。 高気密ヘリウム3ガス循環ラインの開発においては今年度はガス循環ラインおよびアルカリ金属担持ゼオライト膜設置容器に要求される性能を検討し、設計を進めた。その結果を受け、ガス回収が可能な気密性スクロールポンプなど実験に必要となる機材の発注を行った。また、実験に使用するヘリウム3ガスの発注を併せて行った。さらに、ゼオライト膜を用いないSEOP法により3Heガスの偏極実験も行い3Heガスの核偏極に成功した。これにより、問題となるアルカリ金属の密度と緩和について理解を進め、ゼオライト膜を用いたスピン交換実験に役立つ貴重な情報を得ることができた。 アルカリ金属担持ゼオライト膜の開発においては必要とされる性能を詳細に検討し、アルカリ金属担持ゼオライト作製に必要となる試薬品、物品の購入を進めた。また、試験的にガラス管にアルカリ金属を導入し、真空封入・加熱することで蒸気圧の制御条件の調査を行った。また、アルカリ金属担持ゼオライトが正しく作製されたかを確認する手法を用意した。 ヘリウム3ガス偏極度測定・極性制御用電子回路については、目標となる信号の電圧が100nVと小さい上にインピーダンスが大きいため測定の困難が予想されたため、24bitADCを用いた高性能データ収集システムの開発を進めた。将来J-PARCのビームラインでの応用実験を念頭にした、限られたスペースを有効活用するために小型システムとするとともに、ヘリウム3ガスの偏極方向を制御するための回路を組み込むことに成功した。 これらの開発を進めたことで、高性能偏極ヘリウム3ガス生成装置の評価環境を整えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は高性能偏極ヘリウム3ガス生成技術開発に必要となる3つの開発要素、すなわち高気密ヘリウム3ガス循環ラインの開発、アルカリ金属担持ゼオライト膜の開発、ヘリウム3ガス偏極度測定・極性制御用電子回路の開発を中心に行い、高性能偏極ヘリウム3ガス生成装置の評価環境を整えることができた。計画では今年度アルカリ金属担持ゼオライト膜を用いた偏極実験を行う予定であったが、ヘリウム3ガスの供給が逼迫しており入手が遅れ、実験を来年度に延期することとした。 一方で、J-PARC MLFの中性子ビームラインにおいて、本研究の基礎となるアルカリ金属ガスを用いたSEOP法によるヘリウム3ガス偏極実験を行い、実際にヘリウム3ガスの偏極に成功した。さらに、来年度以降に計画している中性子ビームラインでの散乱実験への応用で計画していたのと同様の内容の実験をアルカリ金属ガスを用いたSEOP法によるシステムで行い、偏極中性子散乱実験に成功した。 これにより、当初計画にはなかった実験セットアップの詳細に関する情報、および貴重な偏極中性子散乱実験のデータを入手することができ、応用実験へ弾みを付けることができたと考えられる。 総合的に判断して、当初の計画とは内容が少し違うものの一部で計画以上の大きな進展が見られ、全体としては計画が順調に推移しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、今年度検討・設計・購入手配した高性能偏極ヘリウム3ガス生成システムを構築し、実際に核スピン偏極実験を行いその性能を評価する計画である。まずは高気密ヘリウム3ガス循環ラインの性能評価を目的として、キセノンガスの核偏極実験を行う。その結果修正すべき点を洗い出し、修正を施した後にヘリウム3ガスの偏極実験を行い、最終的なシステム性能を評価する。 また、電子回路システムの最適化・高度化も推進する予定である。高性能偏極ヘリウム3ガス生成システムの応用においてはシステムサイズをコンパクトにすること、10nV程度の微弱な信号も確実に検出できる高感度なシステムを構築すること、J-PARC MLFの実験環境の大きなのノイズの元でも正常に動作することが重要な課題となる。これを達成する目的で今年度開発した電子回路の改良に取り組む。 これら2項目が終了した後は、J-PARC MLF中性子ビームラインでの実験に向けたシステムの最適化に取り組む。偏極部と中性子透過部を分離し、その間を核偏極ヘリウム3ガスが減極することなく効率的に輸送するシステムを開発する。また、中性子を透過させる部分についてはホウ素フリーのガラス材料を用いるシステムに設計を改める。また、設置に必要なジグの設計・製作を行う。 本研究で得られた成果については適宜学会発表を行い、情報の発信に努めるものとする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ヘリウム3ガスは貴重であるため、まずはキセノンガスで偏極性能評価を行う。そのために天然キセノンガス100L(予価20万円)を購入する。 また、電子システムの構築、および最適化・高性能化を目的として関連する電子回路の製作を行う(予算50万円)。 さらに、応用実験に向けシステム全体をj-PARC MLFのビームラインに最適化した形への設計変更を行い、再構築する予定である。 年度末までに得られた知見を、日本中性子科学会、および日本物理学会で発表するために旅費を計上する。
|