平成25年度には、前年度に開発したチップ型ゼータ電位計測システムを用いてエクソソームの分析を行った。既に、前立腺がんPC3細胞由来エクソソームのゼータ電位が正常前立腺上皮PNT2細胞由来エクソソームのゼータ電位と比較して大きく負であることを見出している。本年度は、その差異のメカニズムについて検討するために、細胞のゼータ電位の主な要因とされるシアル酸がエクソソームのゼータ電位にも同様の役割を担うと着目し、シアル酸切断酵素シアリダーゼを作用させた前後のエクソソームのゼータ電位を測定した。その結果、シアリダーゼによりエクソソームのゼータ電位は正にシフトし、PNT2由来とPC3由来のエクソソームの電位は同程度となった。この結果は、エクソソームの由来細胞によるゼータ電位の差は糖鎖のシアル酸の発現量を反映していることを示しており、由来細胞の状態や種類がそれら細胞から放出されるエクソソームの体内での挙動、すなわちエクソソームを介した細胞間コミュニケーションに影響を与えていることを示唆するという非常に重要な知見である。本研究結果は英文誌「Japanese Journal of Applied Physics」に投稿し、受理された。 更に、本方法論のエクソソーム表面タンパク質分析への応用可能性について検討した。具体的には、ヒト乳がんMDA-MB-231細胞由来のエクソソームに抗ヒトCD63抗体と反応させた後ゼータ電位を計測した。その結果、マウスIgGを作用させたエクソソームのゼータ電位と比較して、抗ヒトCD63抗体を作用させたエクソソームでは大きく正にシフトした。この変化はエクソソーム表面に結合した抗体が有する正電荷に起因するものである。このことは、ゼータ電位変化を指標にしてエクソソーム表面のタンパク質を感度良く分析できることを示しており、将来のエクソソーム診断へ繋がる重要な成果を得た。
|